いつか「ほんと」になれたら

「あ、素だったんだ……」


 艾葉が何を言いたいのか本人の口からは聞けなかったけど、おそらく芽蕗ちゃんと共謀して白雪兄妹を仲直りさせようとしてるんじゃないかな。

 やっぱりうちの艾葉、可愛すぎる。
 

「とりあえず、会話盗み聞きしますよ」
「はーい」

 かつて、施設から引き取ったばかりの艾葉は、とても真面目な、規則第一で動く子だった。
 それはそれでめちゃくちゃとんでもなく偉いのだが、時には正論だけで判断しない方がいいこともある。

 今回の家出だって、発案者は艾葉だと聞いた。これが世間的には間違っていたとしても、咲凜ちゃんにとっては救いになったはずだ。
 

「燐人くん?」
「どうして…?」 

 電話の相手はまさかのお兄さんだったらしく、咲凜ちゃんの声には戸惑いが見える。
 それでも、どうしてと尋ねるその口調には喜びが隠し切れていなかった。

 咲凜ちゃんは不満もたくさん言っていたけど、結局この子はお兄さん…燐人さんのことが大好きなんだろうと思う。
 長年周りからシスコンと呼ばれ続けた私の、野生の勘がそう告げるんだから間違いない。

 
「でも、1人くらい増えても変わらないって純恋さんが……」


 2日一緒に過ごした中で、咲凜ちゃんが我が家を気に入ってくれているのには気づいていた。

 ずっと「おかえり」の一言が欲しかったそうだから、私の最愛の妹であるみぃちゃんが帰ってきた時には羨ましそうな表情をしていた。
 

 確かに、ここは咲凜ちゃんにとって欲しいものが()()()()揃っている場所なんじゃないか、とは思う。