いつか「ほんと」になれたら

「何? 文句でもあんの?」

 あるよ。たっくさんあるよ。
 

 前は、わたしが遅く帰ってきた時だけ気遣ってくれて。
 今は、家出したからこうして心配してくれる。

 何かあってからじゃなくて、わたしは普段から気にかけて欲しかったの。
 優しくて、頼れる、昔みたいなお兄ちゃんであって欲しかったの。

 
「とにかく!わたしのことは心配しなくて大丈夫だから!!」
 

 不満を口に出すことも出来ずに、少し乱暴に受話器を戻す。
 わたしは、ちょっとわがままばかり言い過ぎてしまっただろうか。

 いやいや。先に避けてきたのは燐人くんの方だもんね。じゃあ、お互い様だよね。



「あーあ、仲直りできなかったぁ…」

 大きくため息を吐きながら、変に広く感じる廊下を進む。
 自力で仲直りすると決めたはずなのに。そして、話すチャンスはあったのに、それを無駄にしてしまった。

 
 今、このどんなくだらない話だって、楽しそうに聞いてくれたエリックはいない。
 そんなエリックとの話に、相槌を打ってくれた燐人くんもいない。

 だからと言って、わたしたち兄妹とは関係のない艾葉ちゃんや芽蕗ちゃん、それに純恋さんにはこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。もう巻き込みたくない。



 ねぇ、エリック。わたしはどうすればいいんだろうね。
 心の中でそっと求めた助けに、気づいてくれる人はいなかった。