いつか「ほんと」になれたら


 
 電話の主は、わたしが家出した元凶の燐人くんだった。なんで、わたしが花苑家にいると分かったんだろう。
 家出してきた時にはスマホは持ってなかったから、連絡が来ることはないと思っていたのに。

 わたしの居場所はお父さんとお母さんにだけ、花苑家の電話を借りて話してある。わたしと燐人くんの間の事情を知らない2人を悲しませたくなくて、友達の家でお泊まり会をすると言ってしまったのが間違いだったかな。
 

「えーっと、風の噂で聞いたから」
「…そうなんだ」 
 

 芽蕗ちゃん曰く、高校では燐人くんは“学園の王子様”なんて呼ばれているらしく、普段から周りに多くの人(※8割は女性)が集まるんだとか。おそらく、そこの噂話で聞いた話なんじゃないかと思う。
 影の女子ネットワークって恐ろしい。


「それで、いきなり電話してきて何かわたしに用?」
「長く居座ってると、艾葉ちゃんの家の人も困ると思うよ」 
「でも、1人くらい増えても変わらないって純恋さんが……」
「悪いことは言わないから、早く帰って来なよ」
「なんで? わたしが何をしたって、燐人くんには関係ないでしょ!」
「咲凜のことが、心配……だから」

 あれだけ冷たくしてきたんだから、もうほっといてよ。
 今更帰って来い、なんて言わないで。わたしが家に帰っても、何も言ってくれなかったのは燐人くんなのに。
 
 弱々しい声で心配だって言われたら、勘違いしちゃう。
 元の優しかった燐人くんが戻ってきたって思っちゃう。
 
「心配、してくれるんだね」