いつか「ほんと」になれたら

◇◇◇


 それから数十分後、わたしは艾葉ちゃんの家──花苑(はなぞの)家の前に立っていた。
 
「艾葉ちゃん、わたし迷惑じゃないかな…」
「絶対に大丈夫!」

 いつも以上に自信たっぷりな艾葉ちゃんは心強いけど、何が大丈夫なのか分からない。いきなり家に居候させてと頼んで、頷いてくれる人なんて多くないだろう。


純恋(すみれ)さん、ただいま」
「艾葉!おかえりーー!!って、その子は?」
「初めまして。艾葉ちゃんのお友達の白雪咲凜です」

 家の中から出てきた人──純恋さんは、艾葉ちゃんの里親らしい。美人と言うよりかは、可愛らしいという言葉の方が似合う女性…いや、美少女だった。
 
「わー!見た目も名前もすごい可愛い!!」
「純恋さん、咲凜が困ってるよ」
「あ、そうだった。艾葉の里親やってます、花苑純恋です。よろしくね」
「はい…!よろしくお願いします」
 
 わたしの代わりに艾葉ちゃんが細かい事情を話すと、純恋さんはあっさりとわたしの居候を許してくれた。今はちょうど純恋さんの妹さんも結婚準備の関係で出入りしているらしく、1人増えたところで変わらないのだそうだ。

 少し話しただけでも、純恋さんはとても気さくで心の広い方だなと思った。帰り道で艾葉ちゃんが、学校では芽蕗ちゃんが、絶対に大丈夫だと繰り返していた理由が今なら分かる。
 

「お姉ちゃん、艾葉。ただいま」
「おかえりなさい」
「みぃちゃん!!! おかえりー!!!! 」
「もうお姉ちゃんってば…。大げさだよ」

 純恋さんは、全てを真正面から受け入れてくれる。この人からは、誰かと関わる際の遠慮だとか、そう言ったものは感じない。
 妹さんの帰宅に、大はしゃぎするところを見てもそうだ。

 ため息を吐きながらも嬉しそうな妹さん、妹さんに抱きついている純恋さん、そのやり取りを幸せそうに眺める艾葉ちゃん。
 
 
 わたしが欲しいものが、花苑家には全部揃っていた。
 そして、ぽかぽかと温かい、純恋さんの「おかえり」の言葉がただひたすらに羨ましかった。