いつか「ほんと」になれたら

 燐人くんに冷たく接されるようになってから、わたしは家に帰るのが憂鬱になっていた。
 どれだけ明るい「ただいま」にも、かつての優しかった「おかえり」は返って来ない。

 うちは共働きだから、家に帰っても燐人くんと話せなきゃ、なんだか独りきりみたいで、寂しくてたまらない。

 
 家に帰りたくないから、わたしは放課後は学校の自習室に逃げるようになった。
 元々勉強は出来る方じゃなかったけど、やることもなくて自習している間に基礎は分かるようになった。
 

「……ただいま」
「ねぇ、こんな時間までどこ行ってたの?」

 それに、こうしてわたしが夜遅くに帰ると、少しは心配してくれるのだ。
 我ながら本当に馬鹿だなと思う。こんなことで燐人くんの気を引こうとしたって意味がないのに。
 
 どうせ、燐人くんはわたしに興味ないだろうから。


「自習室行ってたの」
「今日も? 分かんないとこがあるなら、俺に聞けばいいって言ったじゃん」
「ごめん…」

 結局燐人くんのことが大好きなわたしは、嫌だなんて言える訳ない。