いつか「ほんと」になれたら

 でも、保育園の友達は、いつもお父さんが帰ってくるところから始めてたような…。

 
 『おーい、かえったぞー』
 『あなた、おかえりなさい』

 
 …ってな感じで。

 今思い返してみれば、完全に昭和の家だ。
 家庭内の権力格差とかやっぱ嫌だよね。



 そういえば、別パターンもあったはず。

 『ただいま、はにー』
 『おかえりなさい、だぁりん』
 『きょうもかわいいね、ちゅ♡』
 『うふふ♡』



 あ、無理だこれ。
 保育園児でも、さすがに結婚の約束してるペアしかやってなかったし、ハイレベルすぎる。

 このおままごとをしていた猛者たちが、最終的に結婚していることを心の底から願っておく。
 もう間違いなく、これが夫婦間で永遠に封印しときたい黒歴史になっているに違いない。


 ……遠回りはしたものの、散々悩んだ末に、わたしは王子様の名前を知らなかったことに気づいた。



 
「よし! えみりが、おなまえつけてあげる!」

 
 この頃は、まだ5歳。難しい考え方なんて出来ない。
 
 本当に直感で付けたつもりではあるけど、この美しい王子様の名前が、自分と同じ文字から始まったら、どれほどいいだろうかと思った…みたいな。
 
 そうなると、えみりの“え”から始まる名前だ。外国っぽい、この王子様に似合う名前……。