いつか「ほんと」になれたら

 王宮の広い図書室で、僕と弟2人は今日も咲凜の世界に行くための呪文を探していた。
 魔法が上手い方の弟曰く、全10巻ある魔法書のうち、例の呪文は5巻か7巻にあるらしい。

 とりあえず、5巻を僕と魔法の弟、7巻を書類の弟が担当してひたすらに文字列と戦っていた。

「あの、兄さん」
「どうしたの?」
「兄さんはどうして、異世界に行きたいのですか」

 
 書類の弟が、本に目線を落としたままそう尋ねてくる。
 僕の言葉をちゃんと拾いながらも、ページを捲る手が止まることはなく、その速度も一定だ。どういう脳の使い方をしたら、こんな芸当が出来るのだろうか。

 今聞かれた内容は、いずれ家族会議で話すつもりだったので、弟2人ともに聞こえるように少し声を張り上げる。
 
 
「実はね、異世界に大切な人がいるんだ」
「大切な人?」
「うん。その人といるだけで、幸せだって思う」
「じゃあ、兄上はその方が好きということですか!?」
「そうだね」

 
 僕の言葉に、魔法の弟は身を乗り出して聞いてくる。
 
 実は咲凜と会えなくなった頃から、周囲の様子がおかしいと感じるようになった。
 今まで感情のない彫刻みたいだったのに、恋とか嫉妬だとか、人間らしい感情を見せる。目の前にいる弟が、その典型的な例だ。


 この魔法の弟は、絵本の中で僕の妻だった“王女様”と両片思いなんだと思う。
 今、僕が咲凜を好きと言う事実を知って、焦っているのは、僕が王女を幸せにすることができないから。