いつか「ほんと」になれたら

「私は聞いたことがないですね…」

 書類が得意な方の弟が首を横に振る。勉強ができるとは言え、知識量は僕と大して変わらないと思っていたので、これは想定内だ。
 
「確か、古代魔法に似たようなものがあった気がしますよ」
「そうだよね、やっぱりないよね……え?嘘でしょ?」
「稀代の魔法の天才が言うんだから、本当です」

 自分で天才と言うのもどうかと思ったが、どうやら異世界に行く魔法はあるらしい。

 
 古代魔法は、研究者でさえも呪文ひとつを解読するのにも1年はかかるくらい難しいものだ。
 使われている言語は今と同じだけど、どうやら魔法そのものの組み方が異なるらしい。
 
 
 呪文が書いてある魔法書は1冊1000ページのものが10巻ある上に、普通の人はあまり使わない魔法が多いため研究者も少ししかいない。
 ケーキを嫌いな人の顔面に当てる魔法や、好きな子を檻に入れる魔法まであるそうだ。いつ使うんだろう。

 
 そんな古代魔法の魔法書をこの弟は読んで、しかも内容まで覚えているというのか。


「その呪文って覚えてる?」
「いえ。でも、心当たりはあるので、2巻の中から絞れます」
 

 天才魔法使いの方の弟の言葉を受けて、僕は頭脳明晰な方の弟に声をかける。
 
 
「ねぇ、書類処理が得意って聞いたけど、古代の魔法書も処理出来たりする?」
「どういう魔法を探すのかは分かっていますし、大丈夫だと思いますよ」

 
 待ってて、咲凜。

 弟たちの力は借りるけど、君に会うための呪文をきっと探し出してみせるから。