いつか「ほんと」になれたら

 咲凜と最後に話してから、1年が過ぎた。話したと言っても、僕が咲凜の言葉を遮るようにして眠らせてしまったから、会ったという表現の方が正しいだろう。

 あれからも咲凜は、常に課題に追われているし、つまり夜寝るのは遅いし、燐人との関係に悩んでいるみたいだし…。

 精神的にも自分を追い詰めてしまっているようで、本当に心配だ。
 

 僕が咲凜の不安も、悩みも全部受け止めてあげられたらいいのに。

 
『じゃあ、じゃあ…わたしのこと迎えに来てよ、“王子様”』

 いつかの咲凜の言葉が、僕の脳裏に響く。
 
 ……ねぇ、咲凜。会いに行っても、いいのかな。
 叶うのなら、今すぐにでも会いたい。話したい。


 
 僕は絵本から咲凜の様子は見ているけど、1年も話せなくて、正直もう限界だ。それでも、毎日頑張っている咲凜の姿を見ているからこそ、邪魔したくないって思っちゃうんだよ。

 咲凜が僕に向けてくれる、あの優しい声を聞きたい。でも、咲凜の負担にだけはなりたくない。



『時間はかかっちゃうけど、いつか必ず会いに行く。その時は本物の人間として』
『待ってるね』

 あの時、咲凜はそう言って僕の言葉に頷いてくれた。時間は経ってしまったけど、まだ間に合うかな。
 

 咲凜ならきっと、笑って許してくれるはず。
 どうして今さら会いに来たの、なんて僕の知る彼女は絶対に言わない。

 それなら、僕は。僕に出来ることは。