いつか「ほんと」になれたら

◇◇◇

 
「燐人くん、助けて」
「……咲凜?」

 嫌われる未来を願うのに、意地汚い俺はその声に応えてしまう。
 咲凜が俺の助けを求めてくれるのなら、世界のどこにだって駆けつけてしまう。

 
「わたしの絵本が見つからなくて……え、それ」

 救世主(ヒーロー)を探して、宙を彷徨っていた視線が、俺の手元でぴたりと止まる。

 今にも泣きだしそうな表情に誘導されるように、俺も同じ場所に視線を落として──。


 そこで初めて、気がついた。
 俺の腕にあったのは、咲凜が探していた絵本そのものだった。
 
「あ……ごめん」

 なんで、俺がこれを持っている。これは咲凜の大事なもので、冗談でも俺が持っていていいものじゃない。

 
「大丈夫、気にしてないから!」
「どうして、」

 
 かつて、男子生徒たちに囲まれていた咲凜を助けた、あの雨の日。強がって、大丈夫だと言い張っていたのとそっくりの泣きそうな笑顔。

 自分が守るって言ったのに、大事な妹を傷つけて俺は一体何がしたい。

  
 お願い、咲凜。俺のこと、嫌いになって欲しい。
 もう、これ以上傷つけたくない。酷いこともしたくない。
 

 咲凜から遠ざけてくれないと、俺は咲凜から離れられない。
 だって、俺は弱いから。臆病だから。
 この広い広い世界に独りぼっちで、生きていけるほど強くなんてないから。


「燐人くんは絶対悪くない。ね?」 
「…うん。ありがとう」

 どこまでもお人好しな咲凜に漬け込んで、甘ったるくて優しい言葉に頷いてしまった俺は最低だ。
 やっぱり、俺はヒーローにはなれそうにもない。