自分の声が彼女に一切届かないことは本当に久しぶりだ。
なんだか、2人でおままごとしていた時みたいだな、と思う。ちなみにこの状況を楽しむ余裕はない。
あの頃の咲凜も可愛かったけど、今の咲凜は比べものにならないほど綺麗になった。
顔立ちもそうだし、服装や何かもだいぶ大人びた気がする。
ただ、昔みたいな愛らしさところころ変わる豊かな表情は残したままだ。
もしも現実世界で会えたら、絵本越しで見るよりも可愛いだろうな。その時は本当にびっくりして、少し緊張もする自信がある。
そう思うからこそ僕は、咲凜の近くにいるくせに、彼女を傷つける燐人が恨めしいのだ。
◇◇◇
燐人の部屋に、小さなノック音が響く。
「燐人くん、助けて」
「……咲凜?」
『……咲凜!』
僕の心の声と燐人の声が重なった。
咲凜だ。咲凜の声がする。
つい数分前から燐人に拉致されていた僕は、突然の咲凜の声に胸を高鳴らせる。
そして、僕を抱える腕に力を入れた燐人を盗み見る。
誘拐の被害者がこんなことを言うのもなんだが、僕としてはさっきからずっと虚ろな目をしている燐人の方が心配だ。
「わたしの絵本が……え、それ」



