いつか「ほんと」になれたら


 ため息を吐くことが多くなったし、時々涙を流すようにもなった。僕の大好きな黒曜石みたいな瞳の下には、うっすらとクマが出来た。

 そんな状況下に置かれても、誰よりも物事にまっすぐ向き合う咲凜はきっと、僕と会えてないことだとか、色々気にしているんだろう。
 
 
 でも。そんなこと気にしなくていい。
 僕のことなんか忘れてしまってもいい。
 
 早く穏やかな日常が、咲凜に訪れますように。

 
  
◇◇◇

 
 2人で過ごした、いつもの場所。咲凜の夢の中にしかないそこに、なぜか僕は立っていた。
 もしかして、今日は咲凜が来てくれるんじゃないか。

 彼女に休んで欲しいと願ったのは他でもない僕なのに、不覚にも胸が高鳴る。
 期待したら駄目だ。まだ昼過ぎなのに僕がここにいるということは、咲凜は昼寝をしてしまうくらい疲れているのだから。


 そんな僕の葛藤を嘲笑うかのように、周囲がきらきらと輝き始める。
 この現象は過去にも数回だけあったので、一応見覚えはある。

 これは、数多の夢を彷徨っていた咲凜の意識が、僕を選んでくれたということなんじゃないか、と勝手に思っている。
 あくまでも僕の予測でしかないけど。

  

 しばらくすると、光の中に少しずつ少女の影が現れる。
 ずっと待ち焦がれた彼女の姿に、僕はつい声をかけてしまった。