いつか「ほんと」になれたら

 中学生になってから、咲凜は本当に忙しそうだった。
 今までよりも寝る時間が2時間ほど遅くなって、話す時間も減っていった。

「ワークが、終わらない……」

 机の上に突っ伏して、大量の書類を前に呟いている時なんかは、その典型的な例だ。
 こういう日の咲凜は寝る時間も遅いし、翌日の授業中も眠そうなので、僕からは会いに行かないようにしている。


 夢の中でも何かをしなきゃいけないなんて、きっと疲れてしまうだろうから。

 だから、咲凜と話す時間が減ってしまっても不満は言わなかった。咲凜が毎日頑張っていて、他のことで精一杯なのは誰よりも理解しているつもりだった。

 
 咲凜が僕に対して申し訳ないと思っていることも気づいていた。
 僕と話す時間が咲凜の負担にならないように、苦痛にならないように気を使い続けた。
 
 少しくらい疲れたって、何の問題もない。僕にとって、1番大切なのは咲凜が幸せでいることだから。
 できれば僕が幸せにしたいとか、色々な願望はあるものの、そこは昔から変わらない。


「神様。どうか咲凜が、今日は早く寝れますように。ゆっくり休めますように」
 
 神の存在自体は信じていないけれど、藁にも縋る思いで毎日必死に祈った。
 また無力な僕が何かに願うことしか出来ない間に、彼女はどんどん弱っていった。