いつか「ほんと」になれたら


 咲凜が男子生徒たちに馬鹿にされて泣きそうになっているのに、僕は何も出来なかった。1番近くにいたのは、間違いなく僕だったのに。

 結局、咲凜を助け出したのは、庇われていただけの僕じゃなくて咲凜の義兄こと燐人だった。
 
 
 咲凜は気にしなくていいと言ってくれたけど、それでも僕は未だに引きずってしまっている。
 
「だから、家族以外で、咲凜の味方になってくれる人が出来て嬉しい」
「…うん」
「僕は何も出来なくてごめんね」
「そんな風に言わないでよ! エリックは世界のだれよりも、わたしの話を楽しそうに聞いてくれるよ?」
 
 世界で一番、なんて大袈裟だ。どんな出来事も楽しいものに変えてしまう咲凜に、惹かれる人はこれからも増えていく。

 そのうち、天気の話をするだけで爆笑する人なんかも現れるのではないかとすら本気で思うくらいだ。

 
「ごめん。咲凜の前で、かっこ悪いとこ見せちゃったね」
「じゃあ、じゃあ…わたしのこと迎えに来てよ、“王子様”」
「…うん。時間はかかっちゃうけど、いつか必ず会いに行く。その時は本物の人間として」
「待ってるね」

 僕に手を差し伸べ続けてくれる、咲凜の手を取りたい。
 
 咲凜の世界まで行くための呪文は知らない。もちろん、そんな魔法だって聞いたこともない。

 でも、どうしても咲凜との未来が欲しい。今度こそ僕が守りたい。
 その手を繋げる日は近くないと思うけど、咲凜がいてくれさえすればどんな奇跡も起こせる気がした。