いつか「ほんと」になれたら

 咲凜と過ごす時間は、僕にとってあっという間で、いつも驚くほどにすぐに終わってしまう。
 
 なのに、絵本から咲凜の様子を見て、咲凜のことを考えながら夜を待ち侘びる1日は、とても長いもので。 

「エリックー!!会いたかった〜!」

 毎晩、その言葉を聞くたびに、ようやく1日が終わったのかと安心する。

 例えるならば、金曜の仕事を終えた会社員…のような感覚だろうか。
 咲凜の母親が在宅勤務の日、夕方5時くらいにそんな表情をしていた気もする。
 
「咲凜。こんにちは…じゃなかった、こんばんは」
「こんばんは!」

 もちろん、咲凜を眺めている昼間の時間も好きだ。でも僕は、2人で過ごす喜びを知ってしまった。
 ありふれた日常の話をして、さりげなく貰う大好きの言葉が宝物で。

 僕の言葉ひとつで、咲凜がころころと表情を変えるのも絵本と人間だった頃には得られなかった幸福だ。


 こんなに幸せでいいのかって、時々不安になってしまうくらいだ。この感情をうっかり零してしまったとしたら、きっと咲凜は笑って頷いてくれるのだろう。

 彼女は僕の負の感情も、掬い上げて救ってくれる人だ。
 

「それで、今日はどんな話をしてくれるの?」