いつか「ほんと」になれたら


「おうじさま、すっごくかっこいい……」

 そう。表紙の王子様が、好みドストライクだったのだ。世界のどこを探しても、彼よりも好みの顔はいないと断言できる。

 赤っぽい髪に、優しい水色の瞳。ザ・王子様って感じの真っ白な服を着ている。
 服の装飾のおかげか、王子様の持つオーラなのか、彼の周りは他の3倍はきらきらと輝いていた。
 
 ひたすら紳士で優しそうな彼が、絵本の中では剣を振り回し、颯爽と馬で駆けていくのだから、びっくりだ。

 世間では、これをギャップ萌えと言うのだろう。

「あら、まさかの初恋?」
 
 
 そんなお母さんの言葉も、わたしの耳を通り抜けている。


 彼は、今、私と同じ世界にいる。根拠も何もないただの直感だけど、そんな風に感じた。

 
 ううん、相手は絵本。絵本の表紙の王子様。
 突然動き出すことも、喋り出すこともない。

 当時のわたしも、それくらいは分かっていた。

 
 それでも、幼い子供には、絶対にあり得ないような、不思議なことも起こるのだろうか。
 
 食い入るように見つめていると、柔らかい色をした、穏やかな澄んだ瞳と、なぜか目が合った気がした。

 

 
 ──これが、わたしと彼をめぐる全ての奇跡の始まりだ。