いつか「ほんと」になれたら

「そんな風に言わないでよ! エリックは世界のだれよりも、わたしの話を楽しそうに聞いてくれるよ?」

 わたしは、エリックのいいところをいっぱい知っている。
 自分は何も出来ないなんて、そんなこと言わないで欲しい。
 
 わたしの大量の疑問に対して嫌な顔ひとつせず、答えてくれるエリックが好き。
 くだらない話を聞いてくれるエリックが好き。

 他の人には分からないような些細な変化にだって、気づいてしまうくらいには好き。
 

 エリックの存在は、わたしにとって救いだ。

 会いたくて、声が聞きたくて、少しでも多く一緒に居たくて、やりたくない宿題を後回しにすることがなくなった。
 憂鬱だった雨の日が、幸せな時間に変わった。

 わたしの世界を大きく変えたのは、間違いなくエリックだ。 
 それでも駄目だと言うのなら。

  
「ごめん。咲凜の前で、かっこ悪いとこ見せちゃったね」

 エリックはこんな時でも、王子様だ。
 前を見続ける姿はかっこいい。でも、それが無理して作られたものであることにも気づいていた。
 
「じゃあ、じゃあ…わたしのこと迎えに来てよ、“王子様”」
 
 心の支えになるだけじゃ駄目なら、迎えに来たらいい。
 守りたいなら、守ればいい。

 わたしのそんな考えに気づいたのだろう。
 エリックは、大きく頷いた。
 
「…うん。時間はかかっちゃうけど、いつか必ず会いに行く。その時は本物の人間として」
「待ってるね」

 彼の力強い瞳には、未来が映っていた。