いつか「ほんと」になれたら

◇◇◇

「りんとくん、おはようっ!」
「おはよう、咲凜。今日も元気だね」

 あぁ、また始まった。
 
 
 半年前のある日から急に、咲凜の寝起きが良くなった。これまでは、起こされてから布団から出るのに10分かかっていたはずなのに。

 今では自分で起きれるようになったほどだ。
 

「うん!あのね、今日もエリックと会えたの!」
「良かったね。咲凜が楽しそうで俺も嬉しい」

 
 原理はよく分からないが、どうやら咲凜は夢の中で“王子様”と会っているそうだ。 
 
 本物かどうかは怪しいのだが、咲凜は完全にそいつの存在を信じ込んでしまっている。たぶん、今の咲凜には俺が何と言っても無駄だろう。


「わたしと初めて話した日が雨だから、エリックは雨が好きなんだって」
「え、かっこいい」
「でしょ!?」

 
 しかも、エリックとやらはこういうことをさらっと言ってのける人らしい。

「はぁー、エリックかっこよかったな…」
「うんうん」
 
 もの思いに耽る様子は、完全に恋する乙女のそれだ。
 クラスの女子たちが、恋バナしている時の表情と同じ。

 頬を染めて微笑む咲凜は、もっと自分の容姿を自覚した方がいいと思う。

 
 どうせエリックしか見ていないだろうから、きっと咲凜は他の男たちの視線に気づかない。

 油断していたら、気づいた時には食べられてしまっているかもしれない。
 すごく危なっかしい。ずっと見ていないと不安になる。