いつか「ほんと」になれたら


 ちゃんとしたプレゼントを貰う機会もあまりなかったわたしは、興奮気味にお母さんに尋ねる。
 口角がさっきから上がりっぱなしのお母さんからは、冷静を装っているものの、わくわくが隠し切れないような返事が返ってきた。

 バリバリに働くわたしのお母さんは、誰よりもかっこよくて、実は誰よりもかわいい人だ。

 
「あけるよ!?いーい!??」
「もちろん!!」


 包み紙を不器用なりに丁寧に剥がして、中に入っているものを取り出す。

 
「…えほんだ!!」
「どう?気に入った?」
「うん!!!おかあさんだいすきー!!」
「ふふ、お母さんも咲凜がだーいすき!」

 
 出てきたのは、絵本だった。
  表紙には、やわらかなタッチのイラストで仲睦まじそうに寄り添う王子様とお姫様、そして誇らしげに胸を張る白馬が描かれていた。
 

 『魔法の白馬』
 
 わたしの人生を大きく変えることとなる、この絵本のタイトルである。
 
 見るからに幼児向けで、本文はオールふりがなつきなのに、タイトルだけバリバリに漢字表記。
 もしも深い意図がないのなら、今すぐひらがなにして欲しい。

 ちなみに、わたしはこの絵本のせいで、小学2年の頃には魔法という漢字が書けるようになってしまっていた。


 この頃はまだ、漢字なんて読めるわけなかったから、タイトルは5回くらい聞き返してようやく覚えられた。

 作中に白馬もほとんど出て来ないことだし、本当にタイトル変えた方がいいと思う。
 

 でも、当時のわたしが、この絵本を見て初めに思ったことはと言えば──。