「エリックは、なんで、雨が好きなの?」
おそらく咲凜は、半年前の僕の発言を覚えていて、その理由を知りたいと思っていてくれたのだろう。
そう気づいた途端に、胸に温かいものが広がっていく。それは広がって、広がり続けて、とくんとくん、と僕の体中に大きな鼓動を響かせる。
この感覚も、心臓も、感情も、咲凜も、“エリック”も、全て絵本の世界では存在しなかった。
咲凜との夢の中だからこそ、見れた景色だ。
「特に深い理由はないんだけど、強いて言うなら咲凜と初めて話した日が、雨の日だったからかな」
「え、わ、わたし?」
「そうだよ。僕の世界に意味をくれるのは、いつだって咲凜だよ」
「エリック…!」
大きく見開かれた目にも、僕を見つめる赤みを帯びた表情にも、全てに心臓が脈を打つ。
そして、僕は気づいてしまう。
彼女に惹かれる自分自身に。
どうしようもなく咲凜が好きで、会えない時も咲凜のことばっかり考えてしまう。
咲凜が笑っただけで世界は華やぐし、その笑顔を守るためなら僕は世界とだって戦う。
それは、咲凜が僕の心に置いて行った沢山の感情の中でも、1番複雑なものだった。
彼女に幸せになって欲しいけど、彼女が幸せになるのが僕の隣であって欲しい。
そうじゃないと嫌だ、とまで思ってしまう。
分からない。この感情の、何もかもが分からない。
ただ確かなのは、形はどうであれ僕は咲凜が好きだということだけだった。



