いつか「ほんと」になれたら

 そんな僕の切実な願いを嘲笑うかのように、男子生徒たちは咲凜に対する語気を強める。
 
「絵本の王子さまがすきとか、ばっかじゃねぇの?」
「そーだそーだ」

 僕のことは、何と言われても構わない。でも、それで咲凜が馬鹿にされるのは絶対に違う。
 

 咲凜は僕の大切な人。
 
 眩しくて、きらきらしてて、一緒にいると幸せな気持ちになる。
 明るくて、誰よりもまっすぐな彼女が向けてくれる好意は心地良い。
 

 願わくば、この先も一緒に居たい。そんな人だ。


 だからこそ、咲凜が苦しむ姿なんて見たくない。それが僕のせいならなおさらだ。

 辛い思いをさせるんじゃなくて、幸せにしたいのに。
 
「だれか!たすけて!!」 

 心からのその叫び声に、応える術はない。

 こんな絵本の姿じゃ、僕は何も出来ない役立たずだ。


 絵本の世界では、魔物だって山ほど倒したし、最後には世界だって救った。
 なのに、どうしてこの世界では僕は、こんなにも無力なのか。

 大切な人さえも守れない。ただ側で、何も出来ずに見てるだけ。

 誰か咲凜を救ってと祈ることしか出来ない。