いつか「ほんと」になれたら

「やめて!はなして!!」

 その手を取りたかった。
 
「え〜、その絵本をくれたら、かえっていいって言ってるじゃん」
「ぜったいにいや!!」


 こんな空き教室に呼び出されても、何をされても僕を離さないでいてくれる、咲凜の手を取ってどこか安全な場所へと連れ出したかった。


 それは、叶わない夢だった。

 僕は所詮、絵本の中の王子様。人間じゃないから、どんなに願ったところで咲凜の元へは駆けつけられない。
 
「じゃあ、えみりちゃんのだぁいすきなえりっけが、たすけに来てくれるのをまつんだな」
「そうそう。白いお馬さんにのってきてくれるからねぇ〜」
「えりっけじゃなくてエリック!!」

 ガラス細工みたいに綺麗な少女は、涙を堪えて必死に抵抗している。その姿は僕が思っていたものより、ずっとたくましい。

 僕は、本当に守られてるだけでいいのか。
 咲凜だって戦っているんだから、僕も何かしたい。力になりたい。僕を頼って欲しい。