いつか「ほんと」になれたら

 早く布団に入ったら、エリックと話せる時間が増える。そのことに気づいてからは、それまでよりも寝る時刻が1時間は早くなった。

 我ながら本当に現金だと思う。…これからも続けていきたい。
 

「エリック、聞いて!」
「どうしたの、咲凜?」
「今日の天気はね、雨だったんだよ」
「そうだったんだね」
 
 教えてくれてありがとう、とエリックが微笑む度に胸がキュンと高鳴る。
 わたしの町の天気とかいうくだらない話を、楽しそうに聞いてくれる彼に、お礼を言うのはこちらの方なのに。
 
「えっと…、咲凜は雨、好き?」
「あんまりすきじゃないかな……。エリックは?」
「僕は好きだよ」
「そうなんだ」
 
 絵本の向こう側にいる王子様だった、大好きなエリックが隣にいる。


 クラスの男子たちよりも低い彼の声がわたしの名前を呼ぶだけで、好きという単語を紡ぐだけで、頭がパンクして、心臓がうるさいくらいにドキドキして。

 なんで雨が好きなのって、そんなことすらも聞けなくなる。