いつか「ほんと」になれたら


 ──そして、冒頭のシーンに至る。


「絵本の王子さまがすきとか、ばっかじゃねぇの?」
「そーだそーだ」

 男子生徒の手が、絵本に触れそうになった時、わたしは自分に出せる限りの大声で叫んだ。
 
「だれか!たすけて!!」
「…遅くなってごめん」
 
 わたしを庇うように前に出たのは、わたしよりも少しだけ大きな背中だった。
 

「りんと、くん?」
「早く逃げよう。俺の手、離さないでね」

 
 燐人くんは、わたしの手を掴んで走り出す。


「あのさ、咲凜」 
「うん」
「俺は絵本の王子様を好きでいていいと思う」
「ありがとう…」
「いいえ。誰に何を言われても、咲凜は俺の大事な妹だよ。あ、まぁこれから仲良くなる予定なんだけど」

 
 今まで、わたしが絵本の王子様に恋していることを正面から肯定してくれた人はいなかった。

 これが叶わないものだって、自分でも分かってる。諦めた方が楽だと言われたし、実際その通りだと思う。


 世間から見れば、子どもじみた幼い夢だ。

 それでも、わたしは諦めたくなかった。そのままのわたしでいいって認めて欲しかった。


 わたしの10倍くらい頭のいい義兄は、そんなわたしの心を見抜いていたのだろうか。
 
 真相はさておき。
 ずっと遠くにいると思っていた燐人くんと、初めて家族になれた気がした。