いつか「ほんと」になれたら

 ここにいるのがさも当然かというように、彼は口元を緩める。
 でも、わたしにはこの状況が何ひとつとして、理解できていなかった。

 そもそも、絵本の王子様であるはずのエリックがどうしてここにいるのか。
 なんで、そんなに優しい表情をわたしに向けるのか。

 
「すっごくかっこいい……」
「咲凜の好みならいいんだけど」

 
 会えて嬉しいだとか、わたしも会いたかっただとか、他にも言うべきことはあったはずなのに、思わず呟いたのはそんな拙い感想。だって、本当にかっこいいんだもん。仕方ないじゃん。

 わたしの語彙力のかけらもない感想を耳にしても、エリックの笑みは深まるばかりだ。


 立ち尽くすわたしの手を流れるような動作で掬い上げて、エリックはそっと口づけた。
 今にも蕩けてしまいそうな、恍惚とした表情に目眩がする。
 
 
「迎えに来たよ、お姫様」
 
 
 エスコートのように差し出された大きな手を、わたしは今度こそ迷わず取った。