いつか「ほんと」になれたら


◇◇◇

 その日は、朝から雨が降っていて、わたしの気分もどんよりしていた。

 
 わたしは教室の自分の机に突っ伏して、絵本を片手に、窓の外を流れる雫を見つめていた。


「えりっく……、なんかつかれたねー」
「ソウダネー」
「んっ!?」


 わたしの呟きに、初めて返事が返ってきた。


 ずっとエリックと話してみたかったから、本当に嬉しかった…が、しかし。
 わたしは少しだけ違和感を覚えた。

 エリックのことは絵本の中でしか知らないけど、それでも分かる。


 心優しい王子様とされるエリックなら、きっとこんなに感情のこもっていない、適当な返事はしないだろう。
 しかも棒読みだし。
 

 …ってことはこれ、もしかしなくてもエリックじゃないな。


「オーイ。エミリチャーン」 


 エリックもどきが懲りずに話しかけてくるけど、ひたすらに無言を貫く。

 相手は、わたしに何らかの悪意を持っているだろうし、これくらいは許されるはずだ。

 
 しばらくそうしていると、元凶の男子はわたしに見せつけるように舌打ちをした。
 
「…チッ、お前、ほんとつまんねぇな!」
「つまんなくていいもん」

 別に、この人につまらないって言われても、わたしの日常に全く支障はない。
 わたしが特に気にする素振りも見せずに、あっさりとした返事をすると男子はにやりと笑みを浮かべた。
 
「あー、そうかそうか。お前には、えりっけ?がいるもんな」
「……エリックだよ!」

 今まであまり相手にしないようにしていたが、さすがにこれは反応してしまう。

 そもそもこの人が、なんでエリックの存在を知っているのか。
 たぶん、この前恋バナ好きの女子に尋問されて、エリックの名前を出したからだよな…。

 
 その人は、しばらく黙って考え込んでいたが、何かに気づいたらしい。
 
 大きく目を見開いてから、明らかに馬鹿にしたような笑みをわたしに向けた。

「えりっけって、その絵本の王子さまじゃね?」
「…あ」