いつか「ほんと」になれたら


「……エリック」

 ずっと考え込んでいた咲凜が、ふいに紡ぎ出した言葉は、不思議なくらいしっくりきて、僕の心にストンと落ちた。

 パズルの最後のピースがはまるみたいな、ずっと探していた宝箱を見つけたような、この感覚は生まれて初めて感じたものだった。

 
「あなたのなまえは、エリック!」


 咲凜は、僕に名前をくれた。
 
 
 僕の気づかなかったことに咲凜が気づいてくれたから、こんなにも彼女が輝いて見えるのだろうか。
 
 それとも、これは彼女が元から持つ魅力なのか。

 
「よろしくね、エリック」
『こちらこそよろしくね、咲凜』

 僕と視線を合わせた彼女の瞳は、ほら、こんなにも美しい。


 ねぇ、その目にはどんな感情が宿ってるの。
 咲凜のこと、もっと僕に教えて。

 

 
 咲凜といると、なかったはずの感情がどんどん溢れてくる。彼女をもっと知りたい、叶うことなら話してみたいって、どうしようもなくワクワクする。

 
 知らない真っ暗な道でも、太陽みたいな咲凜となら歩けるって思える。
 
 まだ出会って少ししか経っていないのに、彼女と過ごす時間はひどく安心する。
 

 どうしてだろう。
 
 
 魔法をかけたのは僕のはずなのに、だからこそ、咲凜には僕が本物の人間のように感じてるというのに。
 
 
 寧ろ、魔法にかけられているのは僕の方みたいだ。