いつか「ほんと」になれたら

「それよりさ、咲凜(えみり)の王子様とはどうなったの?」
 

 帰宅途中、隣を歩いていた親友の言葉に、わたしは首を振る。
 どうなった──なんて、そんなの尋ねるまでもないのに。


 絵本の王子様への想いは、きっと無謀なものだ。わたしも、そしてわたしを見てきた彼女もそう知っているはず。
 
 
「全然。やっぱり、叶わない恋だったんだよ」
「そんなことないよ」

 
 わたしの呟きを否定する言葉と共に、突然目の前の道路に紋様が現れた。
 よく見ると、円の中に細かい文字やら何やらが書き込まれているようだった。


 どこかで見たような形に、わたしははたと思い当たる。
 もしかしてこれは──、魔法陣?


 魔法陣と思しき紋様から、次々に光が零れる。 
 そして、光は青年の姿を形作る。
 
 ふわりと揺れる赤い髪、対照的に白く煌びやかな王子服。
 
 
 開かれた空色の懐かしい瞳と目が合った時、わたしの口は勝手に動いていた。
 
 
「……エリック?」
「咲凜! 会いたかった」