【1】伝説の名画、忽然と消える
春の午後、穏やかな陽射しが校舎の窓から差し込んでいた。
美術室の前には、生徒たちがざわついている。
「ねえ、聞いた? 伝説の名画がなくなったんだって!」
「美術部のあの古い絵、先生たちもみんな探してるらしいよ」
その“伝説の名画”は、かつて有名な画家がこの学校の卒業生であった縁から、校内に寄贈された貴重なものだった。
誰もが一度は目にしたことがあるけれど、その由来や価値の高さは、校内でも秘密のように語られていた。
【2】疑惑の矛先は――
突然の事件に、理央くんはいつもと違う表情を見せた。
「こんな時こそ、落ち着いて情報を集めるべきだ」と、普段の冷静さを取り戻そうとしているようだった。
しかし、すぐに教室でささやかれる噂を耳にした。
「ねえ、理央くんが何か知ってるらしいよ」
「美術部の先輩と口論してたとか」
そんな話に、ひよりの心はざわついた。
(まさか、理央くんが容疑者に!?)
【3】ひよりと理央、二人きりの調査開始
放課後、ひよりは理央に声をかけた。
「ねえ、理央くん。本当に何か知ってるの? 一緒に調べようよ」
理央は一瞬迷ったように見えたが、すぐに頷いた。
「君の記憶力は、今回も役に立つだろう」
二人は名画が最後に置かれていた旧校舎の美術室へと向かった。
静まり返った廊下を歩きながら、緊張感と期待が入り混じり、胸が高鳴る。
【4】美術室の静寂と秘密
旧校舎の美術室は、薄暗くてひんやりしていた。
壁に掛かっていたはずの名画の額縁だけが、ぽっかりと空いている。
ひよりはじっと額縁の跡を見つめた。
(こんなに簡単に盗まれるなんて……)
その時、理央が手袋をはめて部屋の隅々を調べ始めた。
「指紋も残っていないし、防犯カメラの映像も操作されている」
「……ますます謎が深まるね」
ひよりの瞬間記憶が鮮明に蘇る。
数日前、美術室の掃除当番の時に、ふと気づいた小さな落書きや、机の位置、忘れられない匂い。
理央は静かに言った。
「君の記憶は事件を解く鍵だ」
【5】美術部の怪しい先輩
その日の放課後、二人は美術部の部室へ向かった。
そこで出迎えたのは、少し影のある先輩――黒川悠斗。
彼は美術部のエースで、名画の管理責任者だった。
悠斗は冷ややかな目で二人を見た。
「何の用だ、蒼井さん、綾瀬くん」
「名画の件で話を聞かせてほしい」
ひよりの瞬間記憶は、悠斗のわずかな動揺を捉えた。
(この人、何か隠してる……)
【6】理央への疑惑、そして真夜中の潜入
噂は学園中に広まり、理央への疑惑は一気に強まった。
理央は、静かにそして強く否定した。
「僕は関係ない。だが、真実を見つけるために動く」
そして、ある晩――
二人はひそかに旧校舎へ潜入する決意をした。
真夜中の廊下を進み、心臓の音が大きく響く中、ひよりは理央の横顔を見つめた。
(こんなに近くで見るのは初めて……)
緊張と期待で胸がいっぱいだった。
【7】静かな廊下に響く足音
夜の旧校舎は、昼間とはまるで違う顔をしていた。
廊下は薄暗く、わずかな電球の灯りだけが道を照らしている。
理央とわたしは、息を殺して慎重に足音を忍ばせながら、美術室へと向かった。
「ここから先は、気をつけて」
理央の低い声に、わたしは頷く。
(こんなに緊張したのは初めてかもしれない)
⸻
【8】見つけた秘密の痕跡
美術室の中は、昼間とは違い、ひんやりと冷えていた。
わたしは壁の小さなひび割れや、机の位置を一瞬で記憶する。
「ここだ」
理央が指差したのは、窓際の床に落ちていた細いワイヤーだった。
「これが、名画盗難のカギかもしれない」
手袋をした彼が丁寧に拾い上げる。
その時、ふと背筋に冷たいものが走った。
⸻
【9】ひよりの心が揺れる夜
理央と並んで窓の外を見た瞬間、わたしの胸の内は不思議な感情で満たされた。
(こんなに近くにいるのに、理央くんのことを何も知らない)
少しだけ顔が赤くなる。
「ひより、大丈夫か?」
彼の声が優しく響く。
「うん、大丈夫」
でも、どこか嘘くさい。
その夜、わたしは自分の気持ちが少しずつ変わっていくのを感じていた。
【10】犯人の正体
翌日、理央はついに証拠をまとめあげた。
「校内LANのログ、部室に設置されていた監視デバイス、そして昨夜拾ったワイヤー」
それらすべてが、ある一人の人物を指していた。
――美術部のエース、黒川悠斗先輩。
「名画はすり替えられて、複製が展示されていた。犯人はあのワイヤーで額を取り外し、別のフレームと差し替えたんだ」
理央が手元のパソコンで映像を再生すると、旧校舎の監視カメラに、夜中こっそり作業する影が映っていた。
「どうして、そんなこと……?」
ひよりの問いに、黒川先輩は低く答えた。
「……あれは、僕の夢だった。美術の才能が認められず、誰も僕を見てくれなかった。だから、自分の複製画を“本物”として飾りたかったんだ」
⸻
【11】心を結ぶ、沈黙の時間
事件は、教師たちのもとに報告され、大ごとにはならずに静かに処理された。
理央が証拠をまとめて提出したことで、悠斗先輩は反省し、自主的に退部を申し出た。
「……君たちのおかげで、本物の自分と向き合えた気がする」
そう言った先輩の顔には、どこかすっきりした色があった。
放課後。
ひよりと理央は、校庭のベンチで並んで腰かけていた。
少しだけ赤く染まりかけた空。春の風がふわりと髪を撫でる。
「理央くん」
「ん?」
「ありがとう。あなたがいてくれたから、わたし、あんなふうに動けたんだと思う」
理央はちょっとだけ目を細めて、言った。
「君の記憶は武器だけど、それだけじゃない。君の勇気とまっすぐな目が、僕を信じさせたんだ」
ひよりは、何も言えなかった。
でも、胸の奥が、ほんの少し温かくなった。
⸻
【12】そして、新たな謎へ――
その週末。
理央がふと、ひよりに言った。
「ところで――校内のサーバーに、誰かが“謎の暗号”を仕掛けていたんだ。名画とは別件でね」
「なにそれ……新しい事件?」
「どうやら、学園にはもうひとつの“秘密”が隠されているみたいだよ」
「えっ……ま、また捜査……!?」
二人は顔を見合わせて、思わず吹き出した。
ワクワクとドキドキが、まだまだ終わらない――
そんな予感を残しながら、次の章へと物語は進む。
春の午後、穏やかな陽射しが校舎の窓から差し込んでいた。
美術室の前には、生徒たちがざわついている。
「ねえ、聞いた? 伝説の名画がなくなったんだって!」
「美術部のあの古い絵、先生たちもみんな探してるらしいよ」
その“伝説の名画”は、かつて有名な画家がこの学校の卒業生であった縁から、校内に寄贈された貴重なものだった。
誰もが一度は目にしたことがあるけれど、その由来や価値の高さは、校内でも秘密のように語られていた。
【2】疑惑の矛先は――
突然の事件に、理央くんはいつもと違う表情を見せた。
「こんな時こそ、落ち着いて情報を集めるべきだ」と、普段の冷静さを取り戻そうとしているようだった。
しかし、すぐに教室でささやかれる噂を耳にした。
「ねえ、理央くんが何か知ってるらしいよ」
「美術部の先輩と口論してたとか」
そんな話に、ひよりの心はざわついた。
(まさか、理央くんが容疑者に!?)
【3】ひよりと理央、二人きりの調査開始
放課後、ひよりは理央に声をかけた。
「ねえ、理央くん。本当に何か知ってるの? 一緒に調べようよ」
理央は一瞬迷ったように見えたが、すぐに頷いた。
「君の記憶力は、今回も役に立つだろう」
二人は名画が最後に置かれていた旧校舎の美術室へと向かった。
静まり返った廊下を歩きながら、緊張感と期待が入り混じり、胸が高鳴る。
【4】美術室の静寂と秘密
旧校舎の美術室は、薄暗くてひんやりしていた。
壁に掛かっていたはずの名画の額縁だけが、ぽっかりと空いている。
ひよりはじっと額縁の跡を見つめた。
(こんなに簡単に盗まれるなんて……)
その時、理央が手袋をはめて部屋の隅々を調べ始めた。
「指紋も残っていないし、防犯カメラの映像も操作されている」
「……ますます謎が深まるね」
ひよりの瞬間記憶が鮮明に蘇る。
数日前、美術室の掃除当番の時に、ふと気づいた小さな落書きや、机の位置、忘れられない匂い。
理央は静かに言った。
「君の記憶は事件を解く鍵だ」
【5】美術部の怪しい先輩
その日の放課後、二人は美術部の部室へ向かった。
そこで出迎えたのは、少し影のある先輩――黒川悠斗。
彼は美術部のエースで、名画の管理責任者だった。
悠斗は冷ややかな目で二人を見た。
「何の用だ、蒼井さん、綾瀬くん」
「名画の件で話を聞かせてほしい」
ひよりの瞬間記憶は、悠斗のわずかな動揺を捉えた。
(この人、何か隠してる……)
【6】理央への疑惑、そして真夜中の潜入
噂は学園中に広まり、理央への疑惑は一気に強まった。
理央は、静かにそして強く否定した。
「僕は関係ない。だが、真実を見つけるために動く」
そして、ある晩――
二人はひそかに旧校舎へ潜入する決意をした。
真夜中の廊下を進み、心臓の音が大きく響く中、ひよりは理央の横顔を見つめた。
(こんなに近くで見るのは初めて……)
緊張と期待で胸がいっぱいだった。
【7】静かな廊下に響く足音
夜の旧校舎は、昼間とはまるで違う顔をしていた。
廊下は薄暗く、わずかな電球の灯りだけが道を照らしている。
理央とわたしは、息を殺して慎重に足音を忍ばせながら、美術室へと向かった。
「ここから先は、気をつけて」
理央の低い声に、わたしは頷く。
(こんなに緊張したのは初めてかもしれない)
⸻
【8】見つけた秘密の痕跡
美術室の中は、昼間とは違い、ひんやりと冷えていた。
わたしは壁の小さなひび割れや、机の位置を一瞬で記憶する。
「ここだ」
理央が指差したのは、窓際の床に落ちていた細いワイヤーだった。
「これが、名画盗難のカギかもしれない」
手袋をした彼が丁寧に拾い上げる。
その時、ふと背筋に冷たいものが走った。
⸻
【9】ひよりの心が揺れる夜
理央と並んで窓の外を見た瞬間、わたしの胸の内は不思議な感情で満たされた。
(こんなに近くにいるのに、理央くんのことを何も知らない)
少しだけ顔が赤くなる。
「ひより、大丈夫か?」
彼の声が優しく響く。
「うん、大丈夫」
でも、どこか嘘くさい。
その夜、わたしは自分の気持ちが少しずつ変わっていくのを感じていた。
【10】犯人の正体
翌日、理央はついに証拠をまとめあげた。
「校内LANのログ、部室に設置されていた監視デバイス、そして昨夜拾ったワイヤー」
それらすべてが、ある一人の人物を指していた。
――美術部のエース、黒川悠斗先輩。
「名画はすり替えられて、複製が展示されていた。犯人はあのワイヤーで額を取り外し、別のフレームと差し替えたんだ」
理央が手元のパソコンで映像を再生すると、旧校舎の監視カメラに、夜中こっそり作業する影が映っていた。
「どうして、そんなこと……?」
ひよりの問いに、黒川先輩は低く答えた。
「……あれは、僕の夢だった。美術の才能が認められず、誰も僕を見てくれなかった。だから、自分の複製画を“本物”として飾りたかったんだ」
⸻
【11】心を結ぶ、沈黙の時間
事件は、教師たちのもとに報告され、大ごとにはならずに静かに処理された。
理央が証拠をまとめて提出したことで、悠斗先輩は反省し、自主的に退部を申し出た。
「……君たちのおかげで、本物の自分と向き合えた気がする」
そう言った先輩の顔には、どこかすっきりした色があった。
放課後。
ひよりと理央は、校庭のベンチで並んで腰かけていた。
少しだけ赤く染まりかけた空。春の風がふわりと髪を撫でる。
「理央くん」
「ん?」
「ありがとう。あなたがいてくれたから、わたし、あんなふうに動けたんだと思う」
理央はちょっとだけ目を細めて、言った。
「君の記憶は武器だけど、それだけじゃない。君の勇気とまっすぐな目が、僕を信じさせたんだ」
ひよりは、何も言えなかった。
でも、胸の奥が、ほんの少し温かくなった。
⸻
【12】そして、新たな謎へ――
その週末。
理央がふと、ひよりに言った。
「ところで――校内のサーバーに、誰かが“謎の暗号”を仕掛けていたんだ。名画とは別件でね」
「なにそれ……新しい事件?」
「どうやら、学園にはもうひとつの“秘密”が隠されているみたいだよ」
「えっ……ま、また捜査……!?」
二人は顔を見合わせて、思わず吹き出した。
ワクワクとドキドキが、まだまだ終わらない――
そんな予感を残しながら、次の章へと物語は進む。



