―マヒル&悠太 視点
【1】どうしてあいつばっか、気になるの
春の午後。
マヒルは自販機の前でふと立ち止まった。
(また……あいつのこと、考えてる)
“あいつ”とは──悠太。
中学時代から一緒にいたけれど、マヒルにとっては「どうでもいい男子」のはずだった。
でも、高校に入ってから。
制服の袖越しに触れた指とか。
ふと見せる真面目な表情とか。
(……ずるい、そういうとこ)
気づいてる。
気づいてるけど、ぜったいに自分からは言わない。
【2】優しさって、ずるいと思う
ある日、マヒルがパソコン室でバグと格闘していると──
「なにしてんの?」
と、後ろから悠太が覗き込んできた。
「うわ、びっくりした! なに勝手に画面見てんの! ストーカー! 犯罪!」
「いやいや、俺、隣の席だし」
「……じゃあ10メートル離れて! 空気感染するから!」
「ウイルスかよ俺は」
そんなやりとりをしながらも、悠太は静かにマヒルのコードを見てくれた。
修正ポイントを指摘してくれて、気づけばすんなり動くようになっていた。
「ありがと……でもムカつく」
「どっちだよ」
「ムカつくけど、助かったのは……ちょっとだけ、認める」
【3】体育祭と、ほんのちょっとの勇気
高校初の体育祭。
マヒルは「騎馬戦」の作戦係に任命されていた。
「え、マヒルちゃん頭良さそう〜」
「さすがゲーム脳!」
いじられながらも、冷静に作戦を組んでいたとき。
悠太がそっとやってきて、ポカリを差し出した。
「……また来た」
「来ちゃ悪いかよ」
「いいけど、あんたのその“勝手に来て勝手に優しくするスタイル”どうにかならないの?」
「優しくしてるつもりないんだけどな。好きだから、ただしてるだけ」
「──……なっ、なっ……!」
マヒルはポカリを持ったままフリーズする。
「い、今、何て言った?」
「聞こえなかったならもう一回言おうか?」
「二回言うなっ!」
【4】わたしの負け、じゃないんだから
体育祭が終わった後、マヒルは校舎裏でひとり、ペットボトルをくるくる回していた。
(なんで、あいつの顔が頭から離れないんだろ)
目をつぶると、何気ない悠太の笑顔が浮かぶ。
バカみたいに真っすぐで、全部マヒルの“外側”だけじゃなく“中身”まで見てくる。
「……うざ……でも、ちょっと、嬉しかったかも」
そのとき──後ろから足音。
「マヒル」
「なに?」
「俺、本気で言ってるからな。からかったりしてない」
「わかってるよ……そんなの」
「じゃあ、返事は?」
マヒルは顔を背けたまま、小さな声で。
「……また、コードのバグ詰まったら、あんた呼ぶかも」
「おう、いつでも来い」
「……それが、あたしなりの返事ってことで」
【5】ふたりだけの“次回予告”
その日以来、ふたりの距離は少しずつ縮まっていった。
でも、マヒルは「彼氏彼女」とは絶対に言わない。
悠太も、それを無理に聞いてこない。
それでも──
「なあ、来年の体育祭も一緒に出ようぜ」
「……負けたら責任取ってもらうからね」
「なにそれ」
「さあ?」
笑いながらふたりは並んで歩く。
言葉にしない関係。でも、確かにそこに“恋”がある。



