【1】疑惑の放課後、何かが動き出す

　夕暮れの教室は、いつもより少しだけ静かだった。

　授業が終わり、皆が荷物をまとめて帰り支度をしている中、わたし――蒼井ひよりは、理央くんと放課後に校内の小さな事件を調べる約束をしていた。

　ふたりで一緒に何かをするなんて、まだちょっと慣れていない。

（どうしよう、変なこと聞いてしまったら……）

　そんな不安と期待が入り混じり、心臓が少しだけ早く鼓動を打つ。

　理央くんは、いつもどおりの冷静な表情で、スマホの画面をスクロールしていた。

「……今日の放課後、旧校舎の方でまた奇妙なことがあったらしい」

　彼の声にわたしは反射的に振り返った。

「奇妙なことって？」

「教師が大事にしていた校内の時計が、突然止まったって話だ。誰かが意図的に仕掛けた可能性がある」

「えっ、そんなことが？」

　わたしは思わず目を見開く。

「誰がそんなことするの？」

「それがまだわからない。だから、君の能力が必要なんだ」

　理央くんは真剣な目で、わたしを見つめた。

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【2】動き出した推理の歯車

　校舎裏の旧図書室で、ふたりは資料を調べながら話し合った。

　理央くんはパソコンの画面をちらりと見せてくれた。

「監視カメラの映像は、一部だけ切り取られている。犯人は技術に詳しい人物だろう」

「うーん……そうなると、誰だろう？」

　わたしは思い浮かべた。友達の顔や、部活の先輩たち。

（みんな普通の子だけど、裏の顔があるかも……？）

　理央くんは、わたしの頭の中の考えを読むかのように、にやりと笑った。

「君の観察眼は、まだまだ甘いな」

「そ、そんなことないし！」

　思わず口を尖らせたけど、心の中ではもっと鋭くならなきゃ、と決意した。


【3】動く瞬間記憶、光る推理力

　校舎の時計の故障現場にて。

　理央くんは、落ち着いた目で時計の裏蓋を調べていた。

「仕掛けが巧妙だ。普通の技術者ではない」

　わたしはふと周囲を見渡す。

（……この場所、普段はあまり人が来ない。犯人も、そこを狙ったのかも）

　ひよりの“瞬間記憶”が、ふいに光った。

　以前、同じ場所で見た掲示物の位置や、過去に誰かが触った痕跡を一瞬で記憶。

「ここに指紋の跡がある。しかも、昨日の午後に残されたものだ」

　理央くんが指差す先に、小さな埃の溜まりに混じる人の痕跡。

「犯人は校内にまだいるかもしれない」


【4】秘密がひとつ、またひとつ

　調査を進めるうちに、理央くんのスマホに着信が入った。

「……あ、これは」

　彼はわたしにだけ耳打ちした。

「裏の仕事の仲間からだ。少し電話を切らせて」

　理央くんは電話に出ると、声を低くし、情報を受け取っている様子。

　わたしは不安と興味で胸が高鳴った。

（理央くんは本当にただの“お坊ちゃん”じゃない）

　電話が終わると、彼は小さくため息をついた。

「事件は、まだ序章に過ぎない」



【5】チーム結成の予感

　調査の合間、理央くんが言った。

「君の記憶力は、何よりの武器になる。僕は機械の力を使う」

「そうだね、二人ならきっと解ける」

　初めて、理央くんと本当の意味でチームになった気がした。

「これからも、一緒に捜査しよう」

　わたしの心は、期待と少しの不安で満ちていた。



【6】そして、新たな一歩

　帰り道。

　夕焼け空の色が、鮮やかに変わっていく。

（この先、何が待っているんだろう）

　でも、ひとりじゃない。

　――理央くんが、そばにいる。

　わたしの心は、確かな未来を感じていた。