【1】侵入者
理央とひよりが身を隠すセーフハウスに、ついに足音が忍び寄っていた。
監視ドローンの羽音に続き、無音で扉の前に立つ黒服の影。
「記憶保持者、桃井ひより。指名回収対象。捕縛許可、確認済み」
男が手にするデバイスが小さく光る。そこには“彼女の脳領域マッピング”が表示されていた。
(この子の記憶は、すでに一部が解析されている。あとは、本体を確保するだけだ)
【2】迎撃
「来たか」
理央はすでに察知していた。部屋の奥のパソコンから警報が鳴り、彼はすぐに防御プログラムを展開。
「ひより、ここにいて。絶対、手は出させない」
ひよりもまた、手元の小型タブレットを起動した。
「大丈夫。私の記憶は私のもの。……誰にも渡さない」
記憶を“武器”として使えるのは、彼女にしかできない戦い方だった。
【3】脱出
理央が仕掛けたEMP(電磁パルス)装置が作動し、敵の通信機器が一時的に無力化された。
「今だ、走れ!」
ひよりは、記憶の中に刻まれた非常口の位置を思い出し、迷いなく駆け出す。
“ひとつ見たものは忘れない”――その力が、彼女を守っていた。
黒服の男たちの動きは鋭かったが、ふたりはギリギリで工場を脱出する。
【4】謎の少女との出会い
逃げる途中、ふたりは古びたトンネルの中で、ひとりの少女と出会った。
ピンクの髪にヘッドホン、フリフリの制服スカート、そして――
「やっぱりいた!桃井ひより!やっと会えた~!」
その少女は、嬉しそうに飛びついてきた。
「……誰!?」
「私はマヒル。記憶保持者《第2候補》だよ!そして、君たちの味方っ!」
【5】明かされる“計画”
マヒルは、かつて政府の研究施設に保護されていたもうひとりの“記憶保持候補”。
ただし彼女は、記憶を「選んで削除できる」という逆の能力を持っていた。
「君たち、完全にマークされてる。ひよりの“核心記憶”を抜かれたら、
政府は世界中の記憶を管理するシステムを作れるって噂されてるの」
「……そんなことのために、私の記憶を使おうとしてるの?」
ひよりの声が震える。マヒルは頷いた。
「でも、大丈夫。理央も、あたしも、君を守る」
【6】逃亡チーム、始動
こうして、3人の逃亡生活が始まった。
マヒルは記憶消去のトリックで足取りを撹乱、
理央はネット経路を分散させて追跡を無効化。
ひよりは、記憶の中の「とある未解決事件」の断片をたどって、
自分の“過去”に関するヒントを見つけ出そうとする。
【7】夜の語らい
その晩、廃駅の屋上。ひよりは理央と並んで夜空を見上げた。
「……あのね、理央くん」
「ん?」
「怖いよ。全部わかったら、自分が誰だったか思い出したら……もう今の自分じゃなくなるかもって」
理央は、そっとひよりの肩に寄り添った。
「記憶がどんなでも、今の君は、ちゃんと“君”だよ。僕にとって、大切な、君」
言葉の代わりに、そっと彼の肩に頭を預ける。
風が吹いて、静かなぬくもりが、夜の空に溶けていった。
【8】“記憶の断片”が呼び起こされるとき
翌朝、マヒルが導いた先は、ある古びた図書館だった。
そこは10年前、都市の再開発により閉鎖された旧中央公文書館。
「ここにあるはずなの。ひよりちゃんが“初めて記憶したもの”の記録が」
その言葉に、ひよりの胸が騒ぐ。
(覚えてないのに、心臓だけが反応してる……)
【9】開かれた記憶の扉
ひよりが奥の棚に手を触れた瞬間――映像のような記憶が一気に脳裏を駆け巡る。
――赤い制服を着た大人たち。
――囲まれ、テストされる子どもたち。
――その中のひとり、必死で“ある少年”に助けを求めていた自分。
「……理央……くん……?」
口から漏れた名に、理央がぎくりと肩を揺らした。
「僕も、その施設にいたんだ。君が、あのとき泣きながら僕に――」
「“絶対、記憶してて。私のこと”って……言った」
ふたりの記憶が、ついに繋がった瞬間だった。
【10】過去と現在の狭間で
理央は震える声で続けた。
「あのとき、君は施設から逃げる直前だった。僕に全データを預けて……消えたんだ」
「でも僕、怖くて。ずっとその記憶のファイルにロックをかけたままにしてた」
ひよりは、ゆっくりと彼の手を握った。
「ありがとう。守ってくれて。でも、もう開けよう。
……“本当の私”を、見つけにいこう」
【11】キスの再確認
静かな空間。心の奥の不安も恐れも、すべて裸にされたみたいで恥ずかしかった。
だけど、それでも理央の瞳はまっすぐで、痛いくらいにやさしかった。
「好きだよ、ひより。君の記憶がどんなでも、僕は……」
言葉の代わりに、ふたりの唇がそっと重なった。
今度のキスは、少しだけ長く、確かな意味を持って。
【12】新たな敵
そのとき、図書館の屋根に衝撃音が響いた。
飛び降りてきたのは、長身の少年。黒のパーカーに鋭い目。
「……やっと見つけたよ、“記憶の鍵”」
彼の名は鷹宮 煌(たかみや こう)。
政府直属の記憶制御チーム《第零班》所属のエージェントであり、
ひよりの「封印記憶」に唯一アクセス可能な暗号鍵を持つ存在だった。
【13】宣告
「君の記憶は、個人のものじゃない。人類の未来を変える価値がある。
だから、“君の意思”だけで持ってるのは、もう限界だ」
その冷たい言葉に、ひよりは強く言い返した。
「私の記憶は、誰のためでもない。私自身の“生きてきた証”なの!」
その瞬間、封印された記憶ファイルが彼女の脳内で解錠されていく。
【14】覚醒の予感
金色の光のように流れる記憶データの奔流。
ひよりは、頭を抱えながらも立っていた。
(思い出す……あの日。閉じ込められた研究室。
記憶を引き剥がされ、理央の名前を何度も叫んだ――)
「私は、私だ。記憶がどう変わっても、“今の私”は消えない!」
その叫びに応えるように、理央が後ろから彼女の手を握りしめた。
「行こう、ひより。君と一緒なら、どんな過去も、未来も乗り越えられる」
理央とひよりが身を隠すセーフハウスに、ついに足音が忍び寄っていた。
監視ドローンの羽音に続き、無音で扉の前に立つ黒服の影。
「記憶保持者、桃井ひより。指名回収対象。捕縛許可、確認済み」
男が手にするデバイスが小さく光る。そこには“彼女の脳領域マッピング”が表示されていた。
(この子の記憶は、すでに一部が解析されている。あとは、本体を確保するだけだ)
【2】迎撃
「来たか」
理央はすでに察知していた。部屋の奥のパソコンから警報が鳴り、彼はすぐに防御プログラムを展開。
「ひより、ここにいて。絶対、手は出させない」
ひよりもまた、手元の小型タブレットを起動した。
「大丈夫。私の記憶は私のもの。……誰にも渡さない」
記憶を“武器”として使えるのは、彼女にしかできない戦い方だった。
【3】脱出
理央が仕掛けたEMP(電磁パルス)装置が作動し、敵の通信機器が一時的に無力化された。
「今だ、走れ!」
ひよりは、記憶の中に刻まれた非常口の位置を思い出し、迷いなく駆け出す。
“ひとつ見たものは忘れない”――その力が、彼女を守っていた。
黒服の男たちの動きは鋭かったが、ふたりはギリギリで工場を脱出する。
【4】謎の少女との出会い
逃げる途中、ふたりは古びたトンネルの中で、ひとりの少女と出会った。
ピンクの髪にヘッドホン、フリフリの制服スカート、そして――
「やっぱりいた!桃井ひより!やっと会えた~!」
その少女は、嬉しそうに飛びついてきた。
「……誰!?」
「私はマヒル。記憶保持者《第2候補》だよ!そして、君たちの味方っ!」
【5】明かされる“計画”
マヒルは、かつて政府の研究施設に保護されていたもうひとりの“記憶保持候補”。
ただし彼女は、記憶を「選んで削除できる」という逆の能力を持っていた。
「君たち、完全にマークされてる。ひよりの“核心記憶”を抜かれたら、
政府は世界中の記憶を管理するシステムを作れるって噂されてるの」
「……そんなことのために、私の記憶を使おうとしてるの?」
ひよりの声が震える。マヒルは頷いた。
「でも、大丈夫。理央も、あたしも、君を守る」
【6】逃亡チーム、始動
こうして、3人の逃亡生活が始まった。
マヒルは記憶消去のトリックで足取りを撹乱、
理央はネット経路を分散させて追跡を無効化。
ひよりは、記憶の中の「とある未解決事件」の断片をたどって、
自分の“過去”に関するヒントを見つけ出そうとする。
【7】夜の語らい
その晩、廃駅の屋上。ひよりは理央と並んで夜空を見上げた。
「……あのね、理央くん」
「ん?」
「怖いよ。全部わかったら、自分が誰だったか思い出したら……もう今の自分じゃなくなるかもって」
理央は、そっとひよりの肩に寄り添った。
「記憶がどんなでも、今の君は、ちゃんと“君”だよ。僕にとって、大切な、君」
言葉の代わりに、そっと彼の肩に頭を預ける。
風が吹いて、静かなぬくもりが、夜の空に溶けていった。
【8】“記憶の断片”が呼び起こされるとき
翌朝、マヒルが導いた先は、ある古びた図書館だった。
そこは10年前、都市の再開発により閉鎖された旧中央公文書館。
「ここにあるはずなの。ひよりちゃんが“初めて記憶したもの”の記録が」
その言葉に、ひよりの胸が騒ぐ。
(覚えてないのに、心臓だけが反応してる……)
【9】開かれた記憶の扉
ひよりが奥の棚に手を触れた瞬間――映像のような記憶が一気に脳裏を駆け巡る。
――赤い制服を着た大人たち。
――囲まれ、テストされる子どもたち。
――その中のひとり、必死で“ある少年”に助けを求めていた自分。
「……理央……くん……?」
口から漏れた名に、理央がぎくりと肩を揺らした。
「僕も、その施設にいたんだ。君が、あのとき泣きながら僕に――」
「“絶対、記憶してて。私のこと”って……言った」
ふたりの記憶が、ついに繋がった瞬間だった。
【10】過去と現在の狭間で
理央は震える声で続けた。
「あのとき、君は施設から逃げる直前だった。僕に全データを預けて……消えたんだ」
「でも僕、怖くて。ずっとその記憶のファイルにロックをかけたままにしてた」
ひよりは、ゆっくりと彼の手を握った。
「ありがとう。守ってくれて。でも、もう開けよう。
……“本当の私”を、見つけにいこう」
【11】キスの再確認
静かな空間。心の奥の不安も恐れも、すべて裸にされたみたいで恥ずかしかった。
だけど、それでも理央の瞳はまっすぐで、痛いくらいにやさしかった。
「好きだよ、ひより。君の記憶がどんなでも、僕は……」
言葉の代わりに、ふたりの唇がそっと重なった。
今度のキスは、少しだけ長く、確かな意味を持って。
【12】新たな敵
そのとき、図書館の屋根に衝撃音が響いた。
飛び降りてきたのは、長身の少年。黒のパーカーに鋭い目。
「……やっと見つけたよ、“記憶の鍵”」
彼の名は鷹宮 煌(たかみや こう)。
政府直属の記憶制御チーム《第零班》所属のエージェントであり、
ひよりの「封印記憶」に唯一アクセス可能な暗号鍵を持つ存在だった。
【13】宣告
「君の記憶は、個人のものじゃない。人類の未来を変える価値がある。
だから、“君の意思”だけで持ってるのは、もう限界だ」
その冷たい言葉に、ひよりは強く言い返した。
「私の記憶は、誰のためでもない。私自身の“生きてきた証”なの!」
その瞬間、封印された記憶ファイルが彼女の脳内で解錠されていく。
【14】覚醒の予感
金色の光のように流れる記憶データの奔流。
ひよりは、頭を抱えながらも立っていた。
(思い出す……あの日。閉じ込められた研究室。
記憶を引き剥がされ、理央の名前を何度も叫んだ――)
「私は、私だ。記憶がどう変わっても、“今の私”は消えない!」
その叫びに応えるように、理央が後ろから彼女の手を握りしめた。
「行こう、ひより。君と一緒なら、どんな過去も、未来も乗り越えられる」



