◆月曜・朝の大学前
人通りの多いキャンパスの正門前。汐音がマスクをして少しうつむき加減に立っている。そこへ、奏多がふと現れる。
奏多(小声で)「……朝、待たせた」
汐音(驚きつつ微笑む)「来てくれるなんて……」
奏多「週の始まりに顔見たかっただけ。今日もレッスン?」
汐音「うん。午前ピアノ、午後は理論の講義です」
奏多(ふと視線を伏せて)「……やっぱり、“外では”あんまり話しかけない方がいいよな」
汐音(少し寂しげに)「……そう、ですね。まだ……」
ふたり、並んで立ちながらも指一本触れられない距離に。
汐音(心の声)
(“恋人”になったのに、手も繋げない)
(隣にいるのに、まるで知らないふり――
大学って、残酷だ)
◆音楽棟・お昼休み
汐音が千晴と学食の屋外テラスでお昼をとっている。そこへ、奏多が遠くを通り過ぎていくのが見える。
千晴「……あれ、真木先輩じゃない?」
汐音(見ないふりをして)「……うん、たぶん」
千晴(じっと見て)「なんか最近、ちょっとよそよそしいね、ふたりとも」
汐音、曖昧に笑うだけ。
◆ピアノ室・夕方(授業後)
汐音が個人練習していると、奏多からLINEが届く。
📱《18:30、構内スタジオ横の裏階段集合。
10分だけ貸して》
汐音、驚きながらも慌てて譜面を片付ける。
裏階段(ふたりだけの時間)
人通りのない裏階段。奏多が手に缶コーヒーを2本持って待っている。
奏多「おつかれ。これ、朝みたいに飲みそびれてたろ」
汐音(受け取って)「……ありがとう」
奏多「今日、俺、ひとつだけ我慢できなかった」
汐音「……?」
奏多が少し照れたように目をそらして――
奏多「お前に、どっか行こうって、ちゃんと誘いたかった」
汐音(ドキッとして)「……えっ」
奏多「来週末、どっか出かけない?……“外”で、ちゃんと」
汐音、少し涙ぐみそうになって笑う。
汐音「行きたい。どこでも、先輩と一緒なら」
◆階段の陰・別れ際
ふたりが帰ろうとする直前、ふいに奏多が立ち止まって。
奏多(低く)「こっちは“外”じゃないよな?」
汐音(きょとんと)「え……」
奏多がそっと手を取って、軽く額に口づける。
奏多「ずっと触れたかった」
汐音(赤面)「……もう、ずるいです……」
◆帰り道・バス(ひとり)
汐音がバスの窓際、手に持った缶コーヒーの温もりを感じながら。
汐音(モノローグ)
(“外では話さない”って、先輩が言ったあの朝)
(私は少し、寂しかった)
(でも今は――“どこでも、先輩と一緒にいたい”って、
やっぱり思ってる)



