◆月曜・大学構内カフェテリア(昼)
千晴とランチ中の汐音。スマホには“真木奏多”の名前で昨晩のLINEが残る。
千晴「ねえ、最近さ……なんか真木先輩と仲良くない?」
汐音(ビクッとして)「えっ、な、なんで……!?」
千晴(じっと見て)「いやだって、週末たまたま音楽棟の廊下通ったらさ、
真木先輩、ピアノ室から汐音のこと送り出してるとこ見ちゃって」
汐音「……っ」
千晴「付き合ってる、とかじゃないよね?」
汐音、フォークを握る手が止まる。小さく首を振る。
汐音「付き合ってない……でも、ちょっとだけ特別な感じ、してるのは……私もわかってる」
千晴(少し微笑んで)「じゃあ、これからなのかな」
◆音楽棟・夕方
汐音が練習室に向かう途中、後輩女子ふたりの会話が聞こえてくる。
後輩A「真木先輩って最近、後輩の女の子と仲いいらしいよ」
後輩B「あー、あのピアノ専攻の子?発表のときも連弾してたし……」
ふたりの視線が、すれ違いざまに汐音に向けられる。
汐音(心の声)
(“誰かに見られる”って、こんなに苦しいんだ)
(でも……なにも言えない。まだ“恋人”じゃないから)
◆奏多の家の前・夜
(呼び出された汐音)
奏多から「今夜、ちょっと話せるか」と連絡。マンションの前で待ち合わせ。
汐音「こんばんは……」
奏多(静かに)「入って。今日は録音じゃなくて、話したくて呼んだ」
ソファに並んで座るふたり
ふたりの間に、ほんの少しの距離。照明は落とされていて、静か。
奏多「……最近、気づいてるだろ。
周りが俺たちのこと、見てるって」
汐音「はい……。ちょっとだけ、怖いです」
奏多「俺、あんまり人の噂とか気にしない方だけど。
お前が傷つくのは、嫌だ」
汐音「……先輩のそばにいたいって思うのに、
見られるのが怖くなるなんて、ちょっとずるいですね」
沈黙。少しの空気のあと――
奏多(ぽつりと)「もし、俺が“恋人になろう”って言ったら、どうする?」
汐音(驚きつつ、目を逸らして)「それって……周囲を黙らせるため、ですか?」
奏多「ちがう。
俺が、“そうしたい”って思ってるから聞いてる」
汐音(じっと見て)「……だったら」
汐音「“恋人になりたい”って、言ってください」
奏多がソファに座ったまま、汐音の手にそっと触れる。
奏多「俺と、付き合ってほしい」
汐音(少し涙ぐみながら)「はい……お願いします」
玄関前・別れ際
帰る汐音。ドアを開ける前、奏多がふいに呼び止める。
奏多「白石。……俺、たぶんお前に、すごく惹かれてる」
汐音「……私も。先輩といると、“ちゃんと私を見てくれる人がいる”って思えるんです」



