◆キャンパス内・教室前(授業後)
汐音が授業を終え、荷物を片付けていると、奏多がやって来る。
奏多「白石。今週末、時間あるか?」
汐音「え、はい……たぶん」
奏多「録音、俺ん家のスタジオでやる。設備の関係で。土曜、昼すぎでいいか?」
汐音(ドキッとしながら)「……せ、先輩のおうち、ですか?」
奏多「ん。どうせ来てもらうし、昼メシくらいは出すよ」
汐音(心の声)
(家で……ふたりきり!?)
(……大丈夫かな、私)
◆土曜日・奏多のマンション前
汐音、少しおしゃれしてドキドキしながらインターホンを押す。
汐音(心の声)
(大学生になって、先輩の部屋にお邪魔する日が来るなんて…!)
奏多(モニター越し)「そのまま上がっていいよ。702号室」
◆奏多の部屋(マンション内)
モダンで整った部屋。スタジオ機材の並ぶ一角、そして生活感のあるリビング。
汐音(キョロキョロ)「すごい……まるで、音楽家のアトリエみたいです」
奏多「生活の8割ここだしな。好きに見ていいよ」
汐音「……あの、なんかいい匂いがします」
奏多「昼、作っておいた。冷める前に食うか」
◆リビングでランチタイム
二人で並んで食事。パスタとサラダ、手作りっぽい温もりのあるメニュー。
汐音「先輩、料理もできるんですね……」
奏多「最低限な。自炊しないと金もたん」
汐音(心の声)
(高校生の頃、見せなかった“生活”してる先輩……)
(今、私はそれを、間近で見てるんだ)
◆録音スタート(スタジオ内)
遮音された空間で、汐音がピアノ前に座る。奏多がマイクやミキサーを調整中。
奏多「……じゃ、ワンテイクいこう。深呼吸して」
汐音「はい……」
緊張で手が少し震える汐音。奏多が後ろから近づき、ふと手を添えて軽くタッチする。
奏多(低い声で)「力、入りすぎ。抜け」
汐音(びくっ)「っ……」
鼓動が高鳴る中、奏多の顔が近い。
奏多「……平気か?」
汐音(小さく)「……だいじょうぶ、です」
◆演奏シーン
ピアノを弾く汐音。奏多がモニター越しに見つめる。繊細な旋律が流れる中、ふと視線が交錯する。
奏多(心の声)
(変わったな。高校生の頃よりずっと、“女の子”になってる)
汐音(心の声)
(先輩の視線、ずっと感じてる……)
(先生じゃなくて、男の人として見られてる気がする)
◆録音後のスタジオ
録音を終え、ヘッドホンを外してホッとする汐音。奏多が軽く拍手。
奏多「悪くない。むしろ、想像よりずっと良かった」
汐音「ほんとですか!?」
奏多「……録り直したくなるくらい、な」
汐音(ぽかん)「それって……?」
奏多「褒めてんだよ」
汐音、頬を赤らめる。
◆帰り支度・玄関前
夜になり、汐音が靴を履く。奏多が少し遠くから見守っている。
汐音「今日は、ありがとうございました。すごく勉強になりました」
奏多「また必要になったら、頼むな」
汐音「はい……!」
エレベーターへ向かう汐音。ふと、後ろを振り返ると、奏多がまだ見ている。
奏多(ぽつりと)「白石」
汐音(立ち止まって)「……はい?」
奏多「あんま無防備に、男の家来るなよ」
汐音(驚きつつ、真っ赤に)「えっ、えっ……っ!?」



