◆フェスタ翌週・大学の中庭
千晴と汐音がベンチで昼食中。周囲の学生たちの視線が、ちらちらと汐音へ向いている。
千晴「……で、あの後ほんとに“恋人です宣言”したんだ?
真木先輩、男前すぎん?」
汐音(うなずきながら)「びっくりしたけど、嬉しかった……かな」
千晴(やや真顔で)「でも、覚悟も必要だよ。
あの人、“将来の有望株”って、教授たちも一目置いてるし」
汐音(手を止めて)「……うん、それはわかってる」
◆夕方・ピアノ練習室
汐音がひとり練習していると、ふと視線を感じて振り向く。仁科咲良が静かに立っている。
咲良「……真木くんの音、ちょっと変わったわね」
汐音「え……」
咲良「あなたのせい。多分いい意味で、ね。
でも、“恋愛”って、音楽にとっては武器にも足かせにもなるから。覚えておいて」
去り際、ふっと微笑む咲良。
◆その夜・奏多の部屋
汐音が夕飯を作り、ふたりでダイニングに向かい合う。
ソファに座ると、ふと奏多が何気なく話し出す。
奏多「来年から、ある音楽制作会社でインターン決まってさ。
卒業後は、そのまま所属できるかもしれない」
汐音(フォークを止めて)「……そうなんですね」
奏多(気づいて)「驚かせた?」
汐音「ううん。すごいと思う。でも……」
ふと、テーブル越しに見つめる汐音の瞳が、揺れる。
汐音「私は、卒業後、どうしたいかまだ決められなくて……
演奏を続けたい。でも、それが“夢”なのか、ただ“好き”なのかも、わからない」
ソファで寄り添う夜
奏多がそっと汐音の手を取り、ソファに並んで座る。
奏多「夢って、無理して見つけるもんじゃない。
“好き”から始めたって、いいじゃん」
汐音(ぽつり)「でも、先輩は……もう“道”が見えてる」
奏多「それでも、不安だよ」
汐音「……え?」
奏多「“進む道”があるのと、“誰と進みたいか”は別の話だから。
俺は――汐音と一緒にいたい。それが決まってるから、他はどうでもいい」
汐音の目が潤み、そっと肩に寄りかかる。
汐音(小さな声で)「……ありがとう。
私も、先輩と一緒に歩きたいです」
◆構内の掲示板前(翌日)
汐音がひとり、卒業後進路相談の貼り紙を見つめている。
その横顔には、ほんの少しだけ、決意の色が浮かんでいた。
汐音(心の声)
(まだ“夢”には届かないけれど――
私は、今、“誰かと同じ未来を願いたい”って、思えてる)



