◆フェスタ当日・音楽棟ホール舞台袖
準備が進む舞台袖、汐音がピアノの前で深呼吸していると、奏多がやってくる。
手にはスコアとマイク。彼もどこか緊張している。
汐音「……もうすぐ、ですね」
奏多(うなずきながら)「大丈夫。いつも通り弾けばいい」
汐音「ううん、今日は……“いつも通り”じゃない。
だって今日は――ちゃんと、先輩の隣に“立つ”から」
奏多(目を細めて微笑む)「……そうだな」
◆ホール・ステージ本番直前
司会が紹介を始める中、汐音と奏多が舞台に登場。観客のざわめきが止まる。
司会「続いての演奏は、音楽クリエイター専攻の真木奏多さんと、
ピアノ専攻の白石汐音さんによるオリジナル楽曲『your tone』です」
拍手の中、スポットがふたりを照らす。奏多はマイクを手に持ち、観客を見渡して言う。
奏多「……この曲は、俺が“ある人の音”に出会って、生まれました。
その人がいなければ、音楽を“ただの作業”にしていたと思う。
今日はその人と一緒に、“恋をして生まれた音”を聴いてください」
会場、しん……と静まり返る。汐音が目を見開き、少し震える。
演奏スタート
ピアノの旋律から始まる、切なさと温かさの混ざったメロディ。
汐音の指が真っすぐに、でも確かな想いを乗せて鍵盤を叩く。
そこへ奏多のギターと打ち込みのリズムが重なっていく。
奏多(歌詞)
「風にほどけた 君の音が
僕の中で 響いて止まない
届かなくても 伝わらなくても
君だけが 僕の真実」
サビで、ふたりの音が一体になった瞬間――
汐音の目に涙が光る。
汐音(心の声)
(“秘密”でも、“言葉にできなくても”)
(音で伝わる――そう信じて、私は今ここにいる)
演奏後の拍手と沈黙
曲が終わる瞬間、会場に1秒の沈黙。そのあと、割れるような拍手が起こる。
奏多がもう一度マイクを持ち、観客に向かって。
奏多「俺の音楽には、もう一人の“作り手”がいます。
白石汐音――彼女は、俺の恋人です」
観客席、一瞬騒然。その中で汐音が驚いて奏多を見る。
汐音「……先輩……!?」
奏多「ごめん。守るって言っておきながら、
俺の方が我慢できなかった」
汐音の目に、また涙が浮かぶ。それでも彼女は、小さく笑ってうなずいた。
◆舞台裏・終了後
控室前、ふたりだけになった廊下。
汐音「……本当に、言っちゃったんですね」
奏多「うん。後悔は、してない」
汐音「……私も。ずっと言いたかった」
奏多がそっと手を差し出す。汐音が、指を絡めるように握り返す。
奏多(小さく)「恋人なんだから、堂々としないとな」
汐音(赤面)「……はい、“先輩”」



