◆音大・学生ホール掲示板前
汐音がふと足を止める。そこには「春の学内ミュージックフェスタ」の出演者リストが掲示されている。
“白石汐音 × 真木奏多”の名前が並んでいた。
汐音(心の声)
(……本当に、出るんだ。
“大学の舞台”で、先輩と一緒に――)
◆中庭のベンチ・昼
汐音が千晴とお昼中。千晴がワクワクした様子で話す。
千晴「うわー、真木先輩と汐音の共演とか、絶対注目されるやつじゃん!」
汐音「そ、そうかな……」
千晴「にしても、仁科さんは? あの人もメインで別枠出演してるけど、
なんか雰囲気ピリついてない?」
汐音(内心ギクリ)「……そんな、ことないよ。たぶん」
◆スタジオでのリハーサル
奏多とふたり、並んで椅子に座り、譜面を見ながらの音合わせ。
汐音の指が鍵盤に触れようとしたとき――ふと、扉が開く音。
咲良(仁科)「おじゃま。リハ、ちょっと見せてもらっていい?」
空気がぴりりと張り詰める。奏多が軽くうなずくが、汐音の指は微かに止まる。
咲良「ステージ、楽しみだね。……“恋人感”、出しすぎないようにね?」
汐音(戸惑い)「えっ……」
奏多(低く)「仁科、それは――」
咲良(笑顔で遮って)「冗談、冗談。でも……ステージって“人に見られる場所”だから。
“特別”って、目立つものよ?」
咲良、優雅に立ち去る。残されたふたりの間に、妙な沈黙が残る。
◆夜・帰り道
奏多が汐音を駅まで送る。電車が来るまでの短い時間、沈黙のまま並んで立つふたり。
奏多「仁科のこと、気にするな。あいつ、ああいう言い方する」
汐音「……私は、ただ不安だっただけ。
“彼女です”って言えないから、余計に」
奏多(真っ直ぐ見て)「じゃあ、ステージで証明しよう。
お前が俺の“特別な音”だって」
汐音(目を見開き、微笑んで)「……うん。わたし、弾くから。
ちゃんと、先輩と“同じ場所”に立ちたい」
◆イベント前日の夜/奏多の部屋
ふたりで最終合わせのために集まる。
本番さながらに弾き終え、余韻の中――奏多がぽつりと口を開く。
奏多「お前の音、今日いちばんよかった」
汐音「えっ……でも、途中ミスタッチもあって……」
奏多「それがいい。気持ちが、音に出てた」
奏多が、そっと汐音の手に自分の指を重ねる。
奏多(囁くように)「“恋人”って、音にも出るんだな」
汐音、真っ赤になって俯きながらも、そっと彼の手を握り返す。



