【シナリオ】あなたの隣で、音になる





◆音大の入学式当日・キャンパス前(朝)

モノローグ(汐音)
(…夢だった音大。緊張してるけど、ここから私の“音楽の人生”が始まるんだ)

(あの人に……少しでも近づけるように)

汐音、校門を見上げて深呼吸して入る。新入生たちがあちこちで話している。




◆学内案内のピアノ室

案内の途中、ピアノ専攻グループだけ集められる。担当教授が登場。

教授「今日は特別に、先輩が演奏してくれることになっています。静かに聴いてくださいね」

モブ学生「えー誰だろ、めっちゃうまいって噂の先輩かな?」

部屋の照明が少し落ち、グランドピアノに座る一人の男子学生の姿。

汐音(心の声)
(え…あの背中……)

奏多「――“再会”ってテーマで、即興します」

鍵盤に指が触れる。静かに、力強く、繊細に響く旋律。

汐音(心の声)
(……まちがいない。あの人は……)



◆廊下・終了後

ピアノ室を出た汐音。奏多も出てきてすれ違う。汐音、緊張して声をかける。

汐音「あの……真木、先生……っ」

奏多、立ち止まって振り向く。

奏多「……白石、汐音?」

汐音「やっぱり……先生、だったんですね」

奏多「なんだ。ピアノ続けてたんだな」

汐音「はい。……あの時、先生が“やめないで”って言ってくれたから……」

奏多、少しだけ微笑む。

奏多「もう“先生”じゃない。大学じゃ後輩だろ?」

汐音(心の声)
(そうだ、今は“先生”じゃなくて――)



◆カフェスペース(夕方)

案内が終わり、千晴と合流する汐音。興奮気味に話す。

千晴「えー!?あの有名な真木先輩が元家庭教師!?」

汐音「しっ!声大きいって!」

千晴「だって“天才×イケメン×一人暮らし”の三拍子だよ!?ついに少女漫画始まったじゃん!」

汐音(頬染めて)「そんなことないからっ……」



◆帰り道・夕暮れ

汐音が一人で歩きながら空を見上げる。

汐音(モノローグ)
(あの人の音が、またすぐそばで聴けるなんて)

(あの頃より少しだけ、大人になった私なら――)

(“先生”じゃない先輩と、どんな関係になれるんだろう)


大学のピアノ棟の窓辺で、奏多が汐音の名簿を見てふっと笑う。

奏多(心の声)
(まさか、後輩として会うとはな。――白石、楽しませてくれよ)