午後から降り始めた雨は、夕方になると本降りに変わっていた。充たちの会議予定は学校の空き教室で行われるはずだったが、校舎の一部が停電になり、急遽場所を探す羽目になった。
 「まったく、タイミング悪いな……」
 充がため息をつきつつ鞄を抱え直した。
 「でも、いい場所あるよ」
 咲来が穏やかに言った。傘を差しながら商店街の路地を曲がる。たどり着いたのは、商店街の古書店『明光堂』。そこは倫子の実家だった。
 古書の香りが漂う中、二階に上がると静かな和室が広がっていた。窓の外で雨音が心地よく響いている。
 「いらっしゃい。まさか本当に使う日が来るとは思わなかったよ」
 倫子が嬉しそうに迎えた。
 「助かったよ。ありがとな」
 「いいって。たまには人が集まってくれる方が、本も喜ぶしね」
 窓際の丸テーブルに資料を広げ、即席の脚本会議が始まった。咲来、倫子、知香、そして充の四人が輪になって座る。
 「さて、咲来。今まで出たアイデアをまとめると、どうなる?」
 充が尋ねると、咲来はノートを開いた。
 「中心のテーマは『なぜ人はステージに立つのか?』。そこに、それぞれの“光”が絡んでくる形にしたい。自己表現の光、仲間との共鳴の光、観客の心に灯る光……」
 「うん、それを具体的な物語に落とし込むのが課題だね」
 知香がメモを取りながら相槌を打つ。
 「物語の舞台設定は?」倫子が身を乗り出す。
 「異世界演劇団が迷い込んできて、現実と舞台が混ざるアイデアは面白かったよね。現実の商店街や学校を少しファンタジー風にアレンジしてさ」
 「観客が迷い込む展開とか?」倫子が瞳を輝かせる。
 「それ、面白いかも。劇中劇の構造になるから、観客の視点で“ステージに立つ理由”を問いかけやすくなる」
 咲来がすぐにノートに新たな線を引いた。
 「じゃあ、主要キャラは?」
 「登場人物のモデルは……私たち自身が使えるかも」
 倫子が提案した瞬間、全員が顔を見合わせた。
 「ほう?」充が興味津々で乗ってくる。
 「例えば——」
 倫子が即興で語り始めた。
 「光を失った異世界の演劇団が現実世界に現れて、再び“光”を取り戻すために人間たちと共演する物語。演劇団の団長役は充、脚本家は咲来、音楽担当は凌太、衣装は紗季、裏方には健吾、制作進行は知香。まさに私たちそのまま!」
 「ちょ、ちょっと待って!」咲来が笑いながら手を挙げた。
 「でも、それってすごくいい構造だと思う!」知香も興奮気味だ。
 「確かに、現実の自分たちがテーマと重なるのは説得力が出るな」
 充も頷いた。
 「じゃあ仮タイトルは……『光をなくした劇場(シアター・ウィズアウト・ライト)』ってのは?」
 倫子が即興で言う。
 「かっこいい!」
 一同が笑いながら盛り上がる。まさに脚本会議の醍醐味だった。