その後も交渉は順調に進んだ。祐貴の「責任を被るのは自分」「学校と商店街の新しい架け橋になる」——という見事な外交話法が効いた。朝霧氏も最終的には大きく頷いた。
 「よし。わしの一存で即決とはいかんが、組合内では前向きに提案してやろう。少なくとも、反対は出んだろう」
 「ありがとうございます!」
 一同が揃って頭を下げた。祐貴は帰り道でぽつりと言った。
 「ま、初陣としては上々だな。スポンサー候補が複数つけば、役所のほうも動きやすくなる」
 「ほんとに助かった……祐貴、すごいよ」
 「いいってことよ。面白くなってきた」
 その足で今度は市民文化課にも書類提出に向かった。こちらも祐貴の外交スキルが炸裂し、予想以上に話が通じた。審査は当然必要だが、「若者主体の文化活動」として好感触を得た。
 夕方、充たちは再び屋外劇場に集合した。照り始めた西日がステージを金色に染めている。
 「……これ、ほんとに動き出したね」
 咲来が感慨深げに呟く。
 「資金の目途も少しずつ立ってきたし、文化課も協力姿勢を示してくれた。後は、実際に形にしていく作業だな」
 凌太が腕を組んで言う。
 「スケジュールは?」知香が問う。
 「次は半年分の進行表を作る。市からも進捗報告を求められてるしな」
 凌太がすっと手を挙げる。
 「それ、俺が作るわ」
 充が驚いた顔をする。
 「お前が? 意外……」
 「俺、こう見えて計画オタクだぞ? 細かい逆算とか得意だから。無茶なスケジュール組んでやるよ」
 「無茶って……頼むから現実的な範囲で頼むよ」
 一同が笑った。だがこの軽妙なやりとりの裏で、確実に「プロジェクト」は一歩ずつ進行していった。
 その日の最後、充は一人ステージの中央に立った。風が冷たいが、胸の奥は熱かった。
 ——まだ誰もいない客席に向かって、深々と頭を下げる。
 「絶対に、この場所を満員にしてみせるから」
 それは自分自身への静かな宣言だった。
(第2話「仲間集めは綱渡り」執筆 End)