カーテンが完全に開いた。
 まばゆい光が客席を照らし、静寂の中に微かな心音のリズムが流れ始める。
 《Pleiades of Lights》がゆっくりと奏でられ、舞台上に七色の光が呼吸するように揺れていた。
 観客は息を呑み、誰一人言葉を発さないまま見つめている。
 中央に立つ咲来が、一歩前へ進む。
 そして——物語の幕が開いた。
 「この場所は、私たちの光が重なる場所。
 揃わない光の、揺らめきの群れ——でも、だからこそ……」
 咲来の朗読と同時に、紗季とダンサーたちが緩やかに舞い始める。光ファイバーの衣装が、虹の川のように波打つ。
 「——だからこそ、輝く」
 そのセリフと同時に、イヴァンが仕込んだ星空照明が天井から客席全体を包み込む。まるで劇場全体が星雲の中に浮かんでいるようだった。
 凌太のギターが切り込み、鼓動のサンプリングが高鳴る。
 《ドクン……ドクン……》
 七人の心音が重なり合いながら一体化していく。
 「わあ……」
 「あれ、私の鼓動も重なってるみたいだ……」
 観客のあちこちから、小さく驚嘆のささやきが漏れる。
 健吾がステージ端から誠実な語りで客席に語りかける。
 「この劇場が、生きる光を取り戻すまで——僕たちは、何度も迷って、泣いて、また立ち上がりました。皆さんの想いが、ここまで導いてくれました!」
 大きな拍手が起こる。



 クライマックスに向けて楽曲が加速する。
 凌太のギターが主旋律を奏で、ダンサーたちの動きが徐々にダイナミックになっていく。光ファイバーの輝きが天井の星空とシンクロし、七色の波が劇場全体を包み込む。
 「——光は、揃わなくても、輝く」
 咲来の台詞が再び会場に響き渡った。
 その瞬間、イヴァンが最終演出を起動する。
 天井から床へ、客席を包み込むように降り注ぐ無数の小さな光の粒子。
 シェイアンが事前に仕込んでいた反射ディスプレイが、観客一人ひとりを柔らかく照らし返す。
 「わ、私たちが……光に包まれてる!」
 「観客も舞台の一部なんだ……!」
 客席がどよめき、静かな感動が波紋のように広がる。
 七人の鼓動が重なり合う最後のサビ——全員がステージ中央に集まり、両手を広げる。
 《ドクン、ドクン、ドクン……》
 心音とともに光が一層強く脈打ち、客席の全員の表情が七色の輝きに照らし出される。
 そして——
 曲が最後の一音を響かせ、照明がふわりと消える。
 ほんの一瞬の静寂のあと——
 「……ブラボー!!」
 誰かの叫びを皮切りに、満席八百名が総立ちになった。
 拍手と歓声と涙と笑顔が、ルミナステージ全体に渦巻く。
 全員が、言葉ではなく、“光”でつながっていた。
(第38話「ルミナステージ・グランドフィナーレ」執筆 End)