三月下旬夕方、ルミナステージ楽屋。
開演五分前。
楽屋内は独特の緊張感に包まれていた。ステージ裏に響く微かなざわめき。八百名の観客が満席となった客席からは、すでに高まる期待が伝わってくる。
「……いよいよ、だな」
充が深く息を吐いた。
「長かったね」
咲来が隣で微笑む。
「ここまで来たのは、本当に——みんなのおかげだ」
その時、紗季が「きゃあ!」と小さな悲鳴を上げた。
「絡まっちゃった! 配線絡まったぁぁ!」
光ファイバー衣装の最後の電源ラインが、舞台袖の支柱に引っかかっていた。
「紗季、落ち着いて! どっちに巻いてる!?」
咲来が駆け寄る。
「えっと、こっちで……いや逆で……あああ……」
紗季の慌てぶりに皆が息を呑む。
その横でシェイアンが静かに手を伸ばした。
「——ここだよ」
わずかにテンションがかかっていた結び目を、巧みに指先でゆるめて解いた。
「わ……ありがとう、シェイアン!」
「迷路は慌てて駆け抜けるより、立ち止まって全体を見た方が早いから」
咲来も紗季の肩を軽く叩いた。
「大丈夫。今まで何度も乗り越えてきたよ」
「……うん!」
その時、イヴァンの声が飛んできた。
「照明ブート完了。全系統正常」
「音響もイヤモニも同期完了!」
凌太が叫ぶ。
「それじゃ、心拍シンクロ——起動!」
イヤモニからは微かに七人の鼓動が流れ始めた。各々の胸に響く心音が、ゆっくりと重なり合い始める。まるで皆の鼓動が今、ひとつに結び合うかのようだった。
鼓動のシンクロが完成した瞬間、楽屋の空気にぴんと張り詰めた緊張が心地よい高揚感に変わっていく。
「さあ——みんな、行こう!」
充がゆっくり手を掲げた。
全員の手が、次々と重なる。
「ここまで積み重ねた全部を——」
「全部を!」
「届ける!」
「ルミナステージ、グランドフィナーレ——」
「——開演!」
楽屋の扉が開く。ステージの中央から差し込む眩いスポットライト。観客のざわめきが一斉に静まり、まるで一瞬、時が止まったかのようだった。
そして——開演ベルが鳴った。
カラン、カラン、カラン……。
舞台の幕がゆっくりと上がり始める。
満席八百名の観客が、一斉に彼らのステージを迎え入れた。
それは、長い一年の全てが報われる瞬間だった。
(第37話「開演ベルが鳴る瞬間」執筆 End)
開演五分前。
楽屋内は独特の緊張感に包まれていた。ステージ裏に響く微かなざわめき。八百名の観客が満席となった客席からは、すでに高まる期待が伝わってくる。
「……いよいよ、だな」
充が深く息を吐いた。
「長かったね」
咲来が隣で微笑む。
「ここまで来たのは、本当に——みんなのおかげだ」
その時、紗季が「きゃあ!」と小さな悲鳴を上げた。
「絡まっちゃった! 配線絡まったぁぁ!」
光ファイバー衣装の最後の電源ラインが、舞台袖の支柱に引っかかっていた。
「紗季、落ち着いて! どっちに巻いてる!?」
咲来が駆け寄る。
「えっと、こっちで……いや逆で……あああ……」
紗季の慌てぶりに皆が息を呑む。
その横でシェイアンが静かに手を伸ばした。
「——ここだよ」
わずかにテンションがかかっていた結び目を、巧みに指先でゆるめて解いた。
「わ……ありがとう、シェイアン!」
「迷路は慌てて駆け抜けるより、立ち止まって全体を見た方が早いから」
咲来も紗季の肩を軽く叩いた。
「大丈夫。今まで何度も乗り越えてきたよ」
「……うん!」
その時、イヴァンの声が飛んできた。
「照明ブート完了。全系統正常」
「音響もイヤモニも同期完了!」
凌太が叫ぶ。
「それじゃ、心拍シンクロ——起動!」
イヤモニからは微かに七人の鼓動が流れ始めた。各々の胸に響く心音が、ゆっくりと重なり合い始める。まるで皆の鼓動が今、ひとつに結び合うかのようだった。
鼓動のシンクロが完成した瞬間、楽屋の空気にぴんと張り詰めた緊張が心地よい高揚感に変わっていく。
「さあ——みんな、行こう!」
充がゆっくり手を掲げた。
全員の手が、次々と重なる。
「ここまで積み重ねた全部を——」
「全部を!」
「届ける!」
「ルミナステージ、グランドフィナーレ——」
「——開演!」
楽屋の扉が開く。ステージの中央から差し込む眩いスポットライト。観客のざわめきが一斉に静まり、まるで一瞬、時が止まったかのようだった。
そして——開演ベルが鳴った。
カラン、カラン、カラン……。
舞台の幕がゆっくりと上がり始める。
満席八百名の観客が、一斉に彼らのステージを迎え入れた。
それは、長い一年の全てが報われる瞬間だった。
(第37話「開演ベルが鳴る瞬間」執筆 End)


