ステージの向こうで、僕らは光になる

 三月下旬前夜、ルミナステージ前広場。
 いよいよ本番前夜となったルミナステージ前には、静かな光の波が揺れていた。
 それは、市民有志が持ち寄ったキャンドルによる「前夜祭の灯り」だった。
 「……想像以上に集まったな」
 祐貴がぽつりと呟く。
 商店街の店主たち、近隣住民、文化祭をきっかけに応援してくれていた市民たち——総勢数百人のキャンドルが、冬の夜風に優しく揺れていた。
 「当日券の売れ行きも、これでラストスパートだな」
 知香がリアルタイムで予約状況を更新していたタブレットを掲げた。
 「残席、あとほんのわずかだよ」
 充が全体を見渡し、静かに頷いた。
 「この景色を……ずっと目指してたのかもしれないな」
 その時、健吾が壇上に立ち、キャンドルを手にしたまま、震える声でマイクを握った。
 「み、皆さん……本当に、ありがとうございます!」
 声が震えながらも、しっかりと客席を見渡す。
 「僕たちは……この劇場に、もう一度、光をともしたくて……ここまで、ここまで——」
 そこで感極まった健吾の声が詰まる。
 ——だがその瞬間、会場のあちこちから自然に拍手が湧き起こった。
 「がんばれー!」
 「明日、楽しみにしてるぞ!」
 「必ず満席にするからな!」
 その声に背中を押され、健吾は涙を堪えつつ、はっきりと続けた。
 「——明日、ルミナステージに、皆さんをお迎えします! 必ず、最高の光をお届けします!」
 盛大な拍手が起こり、会場が温かい一体感に包まれた。



 その頃、祐貴は会場隅でひとり、スタッフテーブルの前にいた。
 予約システムの当日券入力端末が一瞬エラーを出していた。
 「……やれやれ、こんな大事な時に」
 祐貴は手際よく管理プログラムの裏設定を操作し、強制リロードをかけた。
 「祐貴、トラブル?」
 知香が背後から声をかける。
 「いや、ちょっとした入力ミスが積み重なっただけ。誰も気づかなかったことにしておくよ」
 「本当に、あなたは“水に流す”プロだね」
 「裏方は目立たない方が美しいんだよ」
 祐貴が微笑んだ直後——
 「満席達成!」
 知香がタブレットの画面を指差して叫んだ。
 残席カウンターが「0」を示していた。
 祐貴は、そっと最後のデータ保存ボタンを押して呟く。
 「これで……準備は全て整ったな」
 ルミナステージ前広場に、穏やかで温かな拍手がじわじわと広がっていった。誰もが自然にその場に立ち尽くし、小さな灯りの群れを見つめていた。
 キャンドルの揺らめきが、まるで明日を祝福する小さな星座のように浮かんでいた。
(第36話「前夜祭の灯り」執筆 End)