ステージの向こうで、僕らは光になる

 三月中旬夜、ルミナステージ裏の倉庫脇。
 リハーサルを終えた夜の冷たい空気の中、充と咲来は二人きりで並んでいた。
 「……咲来、少し時間いいか?」
 充が慎重に切り出す。
 「もちろん」
 咲来は柔らかく頷いた。
 「脚本の最終台本、微調整したい」
 充は鞄から印刷された最終稿を取り出し、ページをめくりながら話し始めた。
 「各キャストの演技解釈が、思ったよりバラけてきてるんだ。特にアドリブ部分の温度差が……少し気になってる」
 「……それは、悪いことなの?」
 咲来は静かに問い返す。
 「もちろん、演出としては統一感がある方が完成度は高い。だけど……ここにきて、みんなの表現が“少しずつズレて揺れてる”のが気になるんだ」
 「それは——揺らぎ、だよ」
 咲来の答えは即答だった。
 「ずっと言ってきたでしょう? 『光は、揃わなくても輝く』って。むしろ、バラバラだからこそ響くものがあるんだよ」
 充は黙り込み、しばらく思考を巡らせる。
 「……確かに、ここまで全部、“綿密に計算”しすぎてきたのかもしれない」
 「計算も大事。でも、ここから先は——」
 咲来は満天の夜空を見上げた。
 「光の群れが、自然に揺らめくまま重なる姿が、一番綺麗なんだよ」
 風に揺れる木々の葉が、夜の舞台にさざ波のように響いていた。



 充は、そっと手にした台本を閉じた。
 「……咲来」
 「うん?」
 「やっぱり、君は脚本家だな」
 咲来は目をぱちぱちと瞬かせる。
 「みんなの鼓動が揃わなくても、それぞれのリズムが交錯して、奇跡が生まれてきた。それを——俺は信じ切れてなかったのかもしれない」
 「信じていいんだよ」
 咲来は微笑んだ。
 「私も、みんなも、ずっと充に支えられてきた。でも最後は——一緒に“揺れる”って決めようよ」
 充はしばらく黙ったまま空を見上げ、静かに深呼吸をした。
 空には無数の星が、確かにそれぞれ微妙に揺らめきながら輝いている。
 「……そうだな。揃わない光の群れこそ、今の俺たちの舞台だ」
 ようやく、静かに、けれど確信に満ちた声で呟いた。
 咲来が少し微笑んで言葉を添えた。
 「最終稿は——このままで行こう」
 「……ああ。台本に“余白”があるほうがいい」
 二人はゆっくりと夜空の下を歩き出した。
 遠くルミナステージの高台には、わずかに残るリハーサル照明の余韻が、柔らかく揺れていた。
(第35話「バラバラの心拍」執筆 End)