三月中旬、ルミナステージ。
 まだ薄暗い早朝、舞台には既に全員が集まっていた。最終公演に向けた総合照明・音響リハーサル——通称「光のリハーサル」が始まる。
 「イヴァン、準備は?」
 充の問いに、イヴァンは短く頷く。
 「問題なし。寒冷地仕様のプログラムも完全移植済みだ」
 「シェイアン、美術セットは?」
 「固定部材全て確認済み。可動部も予備ケーブルを二重に仕込んだ」
 「音響班は?」
 「七色心音サンプル、同期完了!」
 凌太が親指を立てる。
 「よし……じゃあ、いこう」
 全員が持ち場に散らばる。
 イヴァンがカウントダウンを始める。
 「光、スタート——3、2、1」
 ——瞬間、夜明け前のルミナステージが一気に星空に包まれた。
 ポータブル照明がステージ天井から市内の空へ向かって光を放つ。反射板が光を複雑に跳ね返し、町の夜空に七色の揺らめく光線が浮かび上がる。
 「……すごい……!」
 健吾が思わず息を呑んだ。
 「これ、夜の街中から全部見えてるぞ……」
 祐貴も静かに驚く。
 「SNSじゃなくても自然に人が集まりそうだね」
 咲来が柔らかく微笑む。
 紗季の光ファイバー衣装も鮮やかに輝き、ダンサーたちの動きに合わせて七色の波が流れるように走る。
 「音——入るよ!」
 凌太の合図と同時に、心音が重なり合った象徴曲《Pleiades of Lights》が鳴り響く。七人の鼓動が、まるで生き物のように緩やかに脈動する。
 「……完璧だ」
 充が小さく呟く。
 イヴァンもシェイアンも、無言のまま小さく頷いた。



 そのときだった。
 遠くの住宅街からも、街灯の下に集まる人影がぽつぽつと見え始めた。夜空に広がる七色の光線が自然と市民たちを呼び寄せ始めていたのだ。
 「すごい……予想以上の集客効果だ」
 知香が呟く。
 「光そのものが宣伝になる。これが本来の“ルミナステージ”だな」
 祐貴が口元を緩める。
 「昔、父に連れてきてもらった時の景色に……似てる」
 充が懐かしそうに空を見上げた。
 イヴァンも隣で静かに言った。
 「……俺も、これを観に来たかったのかもしれない」
 シェイアンはその言葉にそっと続ける。
 「理想は“完成”じゃなく“歩いた足跡”だもんね」
 「うん……今、そう思う」
 全員の視線が、静かに空に向かって揃った。
 こうして、グランドフィナーレに向けた“光の最終兵器”は、完璧に準備が整った。
 充はゆっくりと深く息を吸い、仲間たちを振り返った。
 「みんな……これが俺たちの、ルミナステージだ」
(第34話「光のリハーサル」執筆 End)