二月下旬早朝、市役所前。
 冷え込む空気の中、ルミナステージ存続の最終採決日が訪れていた。
 市役所前にはすでに商店街の店主たち、市民ボランティア、地元高校生たちが次々と集まってきていた。
 「うわ……すごい人だね……」
 紗季が驚いた顔で周囲を見渡す。
 「議会関係者以外にも、あの時の文化祭の客とか、SNSで知った市外の人も混ざってるぞ」
 凌太が軽く肩をすくめる。
 「この半年間、みんなで繋いできた光が、今こうして集まってるんだ」
 咲来が柔らかく微笑んだ。
 議場内では、すでに議会本会議が始まっている。
 市議会議長の長谷部が静かに議場を見渡し、議題に入った。
 「……それでは、市民会館裏ルミナステージの再整備計画に関する最終議案について採決を行います」
 場内が静まり返る。議員たちの手元に賛否ボタンが配置される。
 充たちも別室のモニター越しに固唾を飲んで見守っていた。
 「投票開始」
 電子音と共にカウントダウンが始まる。
 ——残り10秒。
 健吾は緊張で拳を握りしめる。
 紗季は祈るように手を胸に当てている。
 イヴァンは静かにモニターを凝視し、シェイアンは目を閉じたまま微動だにしない。
 知香は進行表を握りしめ、祐貴は最後まで冷静に票数を数えていた。
 そして——投票終了。
 議長が静かに結果を読み上げた。
 「賛成——二十七票、反対——二十一票。
 ……よって、議案は可決とする」
 瞬間、モニター室に歓声が爆発した。



 「やったああああああ!!」
 紗季が真っ先に飛び上がり、健吾がすぐさま涙腺を決壊させる。
 「よ、よかったあああ……!」
 「これで……ついに……!」
 咲来も胸を押さえながら小さく震えている。
 凌太が少し声を低くして呟いた。
 「でも——まだ終わっちゃいない」
 「そうだな」
 充がゆっくり深呼吸をした。
 「満員公演。これが本当の最終条件だ。あと一ヶ月……ここからが本番だぞ!」
 全員の表情が引き締まった。
 同時刻、市役所前でもスピーカーからの採決結果放送に市民たちが歓声を上げていた。
 「決まった! ルミナステージ、残るってよ!」
 「おおー! 本当によくやったなあ!」
 商店街の店主たちも拍手を送る。
 市役所の屋上には、事前に用意されていた横断幕がゆっくりと降ろされた。
 《文化資産指定 内定決定》
 その文字が朝日に照らされて輝いていた。
 充はその文字を見上げながら、静かに拳を握った。
 「……必ず、満席にしてみせる」
 仲間たちの光が、再び一つに結び直された瞬間だった。
(第32話「議会採決の朝」執筆 End)