ステージの向こうで、僕らは光になる

 一月中旬、市役所・議会事務局。
 冬の冷たい風がビルの隙間を吹き抜ける昼下がり、充は再び議会の扉をくぐっていた。
 向かい合って座るのは市議会議長の長谷部だった。議長は静かに、しかし鋭い目で資料をめくっている。
 「——進捗報告は、よく整理されている。だが」
 議長が資料から目を上げた。
 「いよいよ解体入札公告の期限が迫っている。今の“仮保留”のままでは法的に手続きが進んでしまう」
 「承知しています」
 充はまっすぐ議長を見た。
 「ですが、ここに提出する追加資料があります」
 差し出したのは、冬遠征の成果を収めた総括映像と、最新の観客動員推移、スポンサー一覧表だ。
 「海外遠征成功、商店街との連携拡大、メディア評価の上昇——半年でここまで実績を積み重ねました。まだ不十分な点があるのは理解しています。しかし、今まで私たちが積み重ねたものを、あと一歩だけ見届けていただきたいのです」
 議長は映像資料に目を通し、静かに唸った。
 「……確かに、驚くべき成果だ」
 充はさらに続けた。
 「何より——このプロジェクトは市民の中に新しい文化の流れを生み出し始めています。これは数字では測れない部分です」
 「理想論だけでは、予算は動かせない」
 議長が苦い顔をしたその時だった。
 健吾が少し震えながらも、隣席から立ち上がった。
 「僕も……お願いします。子どものころに観たあの劇場の光を、次の世代に残したいんです」
 議長は少し目を細めて二人を見つめた。
 ——沈黙が落ちた。
 そしてゆっくりと、議長は口を開いた。
 「……いいだろう。正式決定は次回本会議の最終審査とする。ただし」
 「ただし?」
 「満員公演——800席全てを埋めた本番を実現すること。それを“文化資産としての価値”の最終条件としよう」
 充は深く頭を下げた。
 「……ありがとうございます。必ず、満席にしてみせます」



 議会事務局を出た充と健吾は、外の冷たい空気を思い切り吸い込んだ。
 「……はああああ……!」
 健吾は肩をがくりと落とした。
 「緊張したあああ……!」
 「俺もさすがに胃が痛かった」
 充は苦笑しながら額を押さえた。
 「でも、条件付きとはいえ、チャンスはもらえた。これで本当に最後の戦いになる」
 「満席か……八百席だよ? 大丈夫かな……」
 健吾の不安はもっともだった。
 地方都市の冬の平日公演でこの規模の動員は、かなり高いハードルだ。
 「可能性はゼロじゃない」
 祐貴が背後から現れて、いつもの飄々とした口調で言った。
 「むしろここまで盛り上げた以上、ここで諦める理由の方が薄い」
 「そうだな。むしろ、ここまでの物語がちゃんと市民に届けば——自然と集まるはずだ」
 充は決意を新たにした。
 ——ルミナステージの完全再生まで、残された猶予はあとわずか。
 「まずは……次の一手だな」
 「動員作戦、だね」
 知香がすでに次の資料を準備していた。
 「情報発信、チケット配布、商店街連動イベント——総力戦に持ち込む」
 全員の視線が自然と集まった。
 「やろう。これまで全部、繋いできたんだ。最後も一緒に繋ごう!」
 充の言葉に、誰もが静かに頷いた。
 その夜、劇場の取り壊しまでの“カウントダウン”は、静かに動き始めた。
(第26話「解体カウントダウン」執筆 End)