十月下旬、市議会本会議場。
巨大な議場ホールの中、再び充と健吾は壇上に立っていた。屋外劇場「ルミナステージ」の取り壊し議案——仮承認期間の満了に伴い、第二回目の一次審査が始まったのだ。
「半年間の活動実績を踏まえ、今回の審査を行う。——説明を」
白坂文化委員長の冷静な声がホールに響く。
「はい!」
充はしっかりと前を向いて答えた。隣には健吾が少し緊張した面持ちで立っている。
「前回の審査以降、私たちはプレ公演と文化祭公演を実施しました。これは、その記録映像です」
充が用意したスライドショーがスクリーンに映し出される。
プレ公演のハプニング、即興で旗を振った紗季の姿、文化祭の奇跡の七分。観客の拍手と笑顔が切り取られた瞬間が次々と映し出されていく。
「私たちは、失敗を経験し、それを乗り越える形で演出を進化させてきました。観客と共に作る舞台という新しい方向性を見出しました」
議員たちは静かに映像を見つめている。
健吾が意を決してマイクを握った。
「僕たちは……この劇場に、また子どもたちが集まる未来を作りたいんです」
一瞬声が震えたが、健吾は続ける。
「僕も……小さいころ、父に連れられてこの劇場で光るステージを見ました。その時のワクワクした気持ちが、今でも心の中に残っています。だから今度は、僕たちが次の子どもたちに“光”を届けたいんです」
涙が滲みそうになったが、健吾はしっかりと議員たちを見つめた。
「どうか、この場所を守らせてください!」
ホールに静寂が広がった。
健吾の訴えを聞き、議場の空気がわずかに揺らいだ。
静かに腕を組んでいた白坂文化委員長が口を開く。
「……率直でよい意見だ。だが、感情だけでは公共施設の維持はできん。財政的な持続性も必要だ」
その瞬間、充は準備していた次の資料を提示する。
「はい。スポンサー協賛は商店街を中心に順調に増え、今後の収益モデルも試算しています。プレ公演後から市民観客も固定層がつき始めました」
データシートが映し出されると、議員たちがざわついた。商店街組合長の顔ぶれもスクリーンに映っている。
「また、今後の国際文化交流事業として、ロシアの芸術高校との合同公演が計画されています。既に遠征予算の一部確保も済んでおります」
「国際交流か……」
「これは教育観光の起点になり得るぞ」
文化課の職員や幾人かの議員が小声でささやき合う。確かに、地方都市での文化的国際交流は希少であり、行政的にも目新しい事例だった。
しばらくして、白坂委員長が静かに結論を述べた。
「わかった。再度、最終審査までの猶予期間を設ける。現段階ではまだ“保留”とするが、次回の本会議で最終判断を下す」
充は深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
健吾も涙目のまま頭を下げた。
議場を後にしてからの帰り道。秋の風が心地よく吹いていた。
「やった……のかな?」
健吾がまだ半信半疑の表情で言うと、祐貴が苦笑した。
「まあ、議場で“保留”って言われた時点で今回は勝ちだ。議会で“完全却下”されるパターンが一番怖かった」
「でも、あと一段階あるんだよね」
知香が冷静に確認する。
「そう。最終審査が年明け直前の議会で行われる。そこが本当の山場だな」
充が静かに言った。
「次は……“決定打”が必要だ」
夕焼けの中、ルミナステージの再生は着実に最後の峠へ向かっていた。
(第18話「最後の一次審査」執筆 End)
巨大な議場ホールの中、再び充と健吾は壇上に立っていた。屋外劇場「ルミナステージ」の取り壊し議案——仮承認期間の満了に伴い、第二回目の一次審査が始まったのだ。
「半年間の活動実績を踏まえ、今回の審査を行う。——説明を」
白坂文化委員長の冷静な声がホールに響く。
「はい!」
充はしっかりと前を向いて答えた。隣には健吾が少し緊張した面持ちで立っている。
「前回の審査以降、私たちはプレ公演と文化祭公演を実施しました。これは、その記録映像です」
充が用意したスライドショーがスクリーンに映し出される。
プレ公演のハプニング、即興で旗を振った紗季の姿、文化祭の奇跡の七分。観客の拍手と笑顔が切り取られた瞬間が次々と映し出されていく。
「私たちは、失敗を経験し、それを乗り越える形で演出を進化させてきました。観客と共に作る舞台という新しい方向性を見出しました」
議員たちは静かに映像を見つめている。
健吾が意を決してマイクを握った。
「僕たちは……この劇場に、また子どもたちが集まる未来を作りたいんです」
一瞬声が震えたが、健吾は続ける。
「僕も……小さいころ、父に連れられてこの劇場で光るステージを見ました。その時のワクワクした気持ちが、今でも心の中に残っています。だから今度は、僕たちが次の子どもたちに“光”を届けたいんです」
涙が滲みそうになったが、健吾はしっかりと議員たちを見つめた。
「どうか、この場所を守らせてください!」
ホールに静寂が広がった。
健吾の訴えを聞き、議場の空気がわずかに揺らいだ。
静かに腕を組んでいた白坂文化委員長が口を開く。
「……率直でよい意見だ。だが、感情だけでは公共施設の維持はできん。財政的な持続性も必要だ」
その瞬間、充は準備していた次の資料を提示する。
「はい。スポンサー協賛は商店街を中心に順調に増え、今後の収益モデルも試算しています。プレ公演後から市民観客も固定層がつき始めました」
データシートが映し出されると、議員たちがざわついた。商店街組合長の顔ぶれもスクリーンに映っている。
「また、今後の国際文化交流事業として、ロシアの芸術高校との合同公演が計画されています。既に遠征予算の一部確保も済んでおります」
「国際交流か……」
「これは教育観光の起点になり得るぞ」
文化課の職員や幾人かの議員が小声でささやき合う。確かに、地方都市での文化的国際交流は希少であり、行政的にも目新しい事例だった。
しばらくして、白坂委員長が静かに結論を述べた。
「わかった。再度、最終審査までの猶予期間を設ける。現段階ではまだ“保留”とするが、次回の本会議で最終判断を下す」
充は深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
健吾も涙目のまま頭を下げた。
議場を後にしてからの帰り道。秋の風が心地よく吹いていた。
「やった……のかな?」
健吾がまだ半信半疑の表情で言うと、祐貴が苦笑した。
「まあ、議場で“保留”って言われた時点で今回は勝ちだ。議会で“完全却下”されるパターンが一番怖かった」
「でも、あと一段階あるんだよね」
知香が冷静に確認する。
「そう。最終審査が年明け直前の議会で行われる。そこが本当の山場だな」
充が静かに言った。
「次は……“決定打”が必要だ」
夕焼けの中、ルミナステージの再生は着実に最後の峠へ向かっていた。
(第18話「最後の一次審査」執筆 End)



