こうして、音楽担当の凌太、衣装担当の紗季が加わった。だが、舞台を作るにはまだまだ足りない。照明、美術、脚本の構成、全体の進行管理、ステージマネージャー……。充は仲間集めの難しさに改めて気づいた。
 翌週の放課後、咲来と二人で劇場の客席に腰を下ろして話し合った。
 「凌太と紗季はノリノリだけど、これからが大変だね」
 「だな。でも、始めちゃったからにはやるしかない」
 「そうだね。脚本の骨子も、そろそろ整理したいんだけど……」
 咲来が膝の上のノートを開く。びっしりと書き込まれたメモ。そこにはすでに複数のストーリー案が並んでいた。
 「光をテーマにするって決めたけど、具体的に何を描くか迷ってて。例えば、"観客の心が光る"、"ステージに立つ意味が光る"、"それぞれの才能が光る"……とか」
 充は唸った。どれも悪くない。でも決め手が欲しい。
 「咲来。もし、このステージが取り壊されるって決まって、最後の一回だけ舞台に立てるとしたら……何を伝えたい?」
 その質問に、咲来はハッとしたように目を見開いた。そして、少しずつ言葉を紡いだ。
 「……誰にでも、自分だけの光がある。強い光じゃなくても、揺らいでもいい。それでも誰かの心に届くなら、それはちゃんと輝いてるって」
 その言葉を聞いて、充は大きく頷いた。
 「それだよ、咲来。脚本の核はそれで行こう。『光は、人の心の中にある』——そういう物語にしよう!」
 咲来は静かに微笑み、ペンを走らせた。
 「じゃあ、台本の仮タイトル……『光になる瞬間(とき)』、ってどう?」
 「……いいタイトルだ」
 風がまた、二人の間を吹き抜けていく。夕暮れの光が、少しだけ柔らかく二人の横顔を染めた。
 その後も数日かけて、充はさらに動き回った。商店街の古本屋に行き、倫子と知香の二人にも声をかけた。脚本構成と制作進行の補佐にぴったりだと思ったからだ。
 古本屋の二階、雨宿りしながらの即席会議で、倫子は得意の即興アイデアを次々に出し、知香はホワイトボードに整理していく。
 「ほらほら、例えば、異世界の演劇団が迷い込んで来るって設定も面白いよね? そこに、観客の子たちが巻き込まれて、現実と舞台が混ざっていくの!」
 「それ、展開が暴走するパターンじゃん……でも、こう整理すれば伏線になるかも」
 知香が図解しながらまとめていく。充はこのやりとりを見て、内心でガッツポーズを取った。いいチームになりそうだ。
 咲来も楽しげに頷いている。
 ——ここに、また新たな光が一つ増えた。
 こうして、静かに、だが確実に「劇場再生計画」は動き出していた。
(第1話「逆光のステージ」執筆 End)